全 情 報

ID番号 07566
事件名 労働契約関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 富士見交通事件
争点
事案概要  タクシー会社Yの平塚営業所に勤務し、全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方自動車交通労働組合(組合本部)のY平塚支部副支部長であったタクシー運転手Xが、支部長Aと共に、Yには労働基準法違反の連続勤務などの長時間労働等の違法な運行管理体制があるとして、労基署及び関東陸運局神奈川支部に告発を行ったことがあったが、その約三か月後、前日に所定の非就労届を届け出てY茅ケ崎支部役員と合同の執行委員会に出席し、右委員会(正午から午後五時まで)終了後、非就労届を提出したものの右委員会を無断欠席したAに遭遇し、右委員会の報告をするために翌日の午前二時の終業時まで正常勤務に就くことなくスナックで過ごしたことから、Aと共に正常勤務を怠ったことが職場放棄に該当するとして懲戒解雇通知書が交付されたところ、組合本部とYとの間で本件懲戒解雇に関する交渉が数回もたれ、退職届と執行委員を辞任する誓約書の提出を申し入れられたが、これを拒否したため(Aは提出し、任意退職に変更され、再雇用された)、それ以降、交渉が打ち切られたことから、右懲戒解雇は解雇権の濫用、不当労働行為として無効である等として、雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、執行委員会終了後の約五時間の職場離脱行為は就業規則の規定に定める懲戒解雇事由に該当せず、また本件懲戒解雇は、Yが労働組合の役員であったXの組合活動を嫌忌し、XをYから排除する意図でなしたものであると推認でき、労働者であるXが労働組合の正当な行為をなしたことを理由になされた不当労働行為であり、無効であるとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職場離脱
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 2000年6月6日
裁判所名 横浜地小田原支
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 550 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例788号29頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕
 被告会社が本件懲戒解雇の理由とした非違行為は、平成八年二月二七日午後五時以降の職場離脱行為と、これと一連の行為で密接に関連する過去及びその直後の職場離脱(同月一〇日の職場離脱及び別紙一〈略-編注〉の職場離脱)行為のみであるというべきであり、被告会社の主張するその余の非違行為は、本件懲戒解雇当時、被告会社が認識していなかったか(営業車両メーターの不正操作及び飲酒運転)、認識していたとしても懲戒解雇に相当する事由としては考慮していなかったもの(粗暴な言動による職場秩序侵害行為、脅迫・虚偽申告による業務妨害及び違法駐車)と認められ、したがって、本件懲戒解雇の理由とされたものではないというべきである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕
 本件職場離脱が、被告会社の就業規則四二条三号の懲戒解雇事由、もしくは同号に準ずるものとして同条一二号に該当するか否かを検討する。
 原告が就業時間中に同僚とともに営業車両でスナックに赴き同所で約五時間過ごしたことは、就業中の他の従業員の志気に悪影響を与えたものとして、職場の秩序を乱したというべきではある。
 ところで、同条三号は「職務上の指示命令に従わず粗暴な言動をし職場の秩序を乱したとき」と規定していることから明らかなように、同号の懲戒解雇事由に該当するためには、職務上の指示命令に従わない粗暴な言動という手段を用いて職場の秩序を乱したことが必要であって、本件職場離脱によって職場秩序が乱されたとしても、同号には該当しないといわざるを得ない。
 また、被告会社では、職場離脱と同様に職場秩序を乱す行為である無断欠勤については、無断欠勤が引き続き三日を超えたときや正当な理由なく遅刻又は欠勤が重なるときであっても譴責事由に留まり(同規則四〇条一、二号)、正当な理由なく無断欠勤五日以上に及ぶときですら、業務停止、乗務停止、出勤停止、減給、降職の事由とされているにすぎず、(同規則四一条一号)、従業員を懲戒解雇するには、正当な理由のない無断欠勤が一四日以上に及ぶことが必要とされていること(同規則四二条一号)に鑑みれば、約五時間程度の職場離脱に過ぎない本件職場離脱は、職場離脱の態様が前記のようなものであったことを考慮しても、同規則四二条一二号のいうところの、他の懲戒解雇事由に「準ずる程度の不都合な行為をしたとき」にも該当しないものといわざるを得ない。
 4 以上によれば、本件懲戒解雇は、被告会社の就業規則に定める懲戒解雇事由に該当する事実が存在しないのになされたもので無効であるといわなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 本件懲戒解雇は、労働者である原告が労働組合の正当な行為をなしたこと(なお、原告とAが行った本件告発は、七名の組合執行委員のうち告発に消極的な三名の執行委員に諮らず、かつ、三名の執行委員の意に反してなされたものではあるが、右の点は組合内部の問題であって、労働組合の正当行為性を失わせるものではない。)を理由になされた不当労働行為であって、無効であるといわざるを得ない。