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ID番号 07593
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 新光美術(本採用拒否)事件
争点
事案概要  採用面接時に、営業経験者として自己アピールした結果、即戦力となるものと期待されて印刷会社Yに試用期間三か月として中途採用され、営業部に配属された労働者Xが、(1)不動産会社へ明渡予定のY所有の遊休地(組合事務所が存置)に自家用車の駐車及び組合事務所へ宿泊したこと(一日)が会社所有地売却の業務妨害に当たること、また(2)印刷会社の営業職として必要な印刷物の見積計算等ができなかったことから、採用に当たり虚偽申告したと考えられること、(3)規則で定められている誓約保証書を提出せず、組合も非難していた給料の遅配について部長に説明のための文書執筆を迫るなどしたことが規則秩序違反に当たること、(4)その他営業活動について業務指示命令違反等があることを理由として、試用期間満了により雇用契約を終了する旨の通知がなされたことから、右本採用拒否は何ら合理的理由のない解雇権の濫用で無効であるとして、労働契約上の地位の確認及び賃金等の支払を請求したケースで、(1)(3)については本採用の可否の判断に際し、不利益に判断するのは相当でないとし、(2)についてはXが虚偽申告をしたことは認められず、(4)についてもXは概ね誠実に職務を果たしたといえるとし、更に部長から幾度となく組合加入の有無を聞かれていたこと等の事情を考慮して、本件採用拒否は、合理的理由がなく、社会通念上相当とは認められず無効であるとして、請求が一部認容(将来分の賃金請求については一部却下)された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 2000年8月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 3801 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例793号25頁
審級関係
評釈論文 石井保雄・労働法律旬報1512号40~43頁2001年9月25日
判決理由 〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 試用期間中の労働契約は、使用者の解約権が留保されている労働契約であると解されるところ、右留保解約権の行使は、採用後の調査や勤務状態の観察を行って採否の最終決定を行うという解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認されうるものでなければならない。〔中略〕
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 確かに原告は、営業の経験者として自己アピールした結果、被告の即戦力になるものと期待されて被告に中途採用されたものの、印刷会社の営業職として必要な印刷物の見積計算等できなかった。しかし、原告は採用面接時、印刷会社に勤務したことがあると述べていたわけではなく、原告と面接した堤総務部長らが、原告が印刷会社との出稿計画進行に従事し、基本的な流れは理解しているとアピールしたことから、能力があると判断したにすぎず(〈人証略〉)、原告に自己の経歴を偽る意図があったわけではない。しかも、印刷物の見積計算については、修得するのには一定の知識と経験が必要であって、A部長も修得すればすむ問題であるとし、実際被告の求人広告には、未経験者でも採用すると書かれていたのであり、またA部長の指導により、原告は営業に出られる程度の最低限の知識は修得していた(〈証拠・人証略〉)。そしてその他、原告の経歴について、履歴書等に虚偽の事実が記載されているわけではない。さらに給料の上申については、確かに原告は履歴書等で、労働条件について被告の規定に準じると記載し面接時にもその旨述べていたが、他方採用面接時には原告の給与額は告げられておらず、後に希望額に達していないとして不満を上申したにすぎない。
 従って、原告が採用面接時に虚偽申告をしたとは認められない。〔中略〕
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 B会社オーディオ事業部に対する営業活動において、訪問の回数が1日2回から1日1回に減ったことについては、A部長の指示が、当初はとりあえず顔を覚えてもらうために1日2回は訪問せよというものであったのが、先方に会えるようにアポイントメントをとって訪問目的等を明らかにして訪問せよというものに変わったためである。そして回数は減ったものの、特段用事がなければ、原告は、その後も同事業部に日参しており、その中で基準見積料金の問題等について、同事業部の要望を聞いてきたりしている。また日本橋の電器販売店回りについては、他の業務の都合で1回しか行けなかったものであり、1回という回数を考慮すれば、具体的な提案材料を報告できなかったとしてもやむをえない面があったといわざるをえない。さらに同事業部に対するプレゼンテーションについても、同業他社の製品と違う製品のアイデアを提示したり、Cの企画書作りを手伝ったり、スケジュールの調整を行ったり、さらには徹夜での準備を行ったりと、概ね誠実に職務を果たしていたといえる。
 5 以上によれば、仮に、被告が主張するように、原告に、できてもいない見積計算の演習をできましたと述べたことがあったり、被告の「営業部員のチェックポイント15」を十分修得していなかったり、レポートの体裁もとれていない書面をレポートとして提出するなど点(ママ)があったとしても、原告は被告に採用後、概ね営業職として誠実に職務を遂行していたものといえる。それゆえ、A部長も、同事業部へのプレゼンテーション終了後、原告に対し「これからは君ら若い営業マンに頑張ってもらわないと。」と言い、また原告に本採用拒否を通知する際にも「君はこれから必要な人材だ、と言ったんだが…」と述べていたのである(〈証拠・人証略〉、原告本人)。そして被告での給料遅配発生後、原告が組合の集会等に参加するようになり、原告は、D総務部長から幾度と組合加入の有無を聞かれていたこと(〈証拠略〉、原告本人)をも考慮するならば、原告に対する本件本採用拒否が、合理的理由があり、社会通念上相当なものであったとは認められず、本件解雇は無効であるといわざるをえない。