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ID番号 07595
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 アリアス(懲戒解雇)事件
争点
事案概要  企業グループAに入社後、同グループに属するホテル経営及び不動産関連事業を業とする会社Yに転籍となり、Yのホテル事業部長として勤務していた労働者Xが、ホテル数の減少に伴う賃金減額に合意したものの、実際には賃金減額がなされないまま、第一次解雇の意思表示がなされたが、その後Yにより解雇の意思表示が撤回され復職することとなったものの(第一次解雇から復職までの賃金支払請求を認容する判決を受けていた)、部長職を解職され、職務手当等(従来一五万)については新職務に照らし協議のうえ決定することとされるとともに賃金は一五万円減額する旨の通知がなされ、その後、Xの代理人が、不明確であった復職後のXの労働条件の明確化を強く求め、Yとの間で書面のやりとりがなされていたものの、XはYでは就労しなかったことから(この間別会社Bで日給制の臨時雇いとして就労し、更に別会社Cの代表取締役となったが、Cからの報酬はなかった)、復職決定約四か月後付で、就業規則に基づき無断欠勤及び職務上の指示命令違反を理由に懲戒解雇されたことから、右懲戒解雇の無効を主張して、労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払を請求したケースで、第一次解雇が撤回された以上、復職後の勤務条件を明らかにすることを申し入れ、解雇期間中の過去分の賃金をすみやかに支払うよう求めることは当然であり、Yは、Xの今後の業務等についての具体的な説明することなしに、Xに来社を強く求めるのみであったこと等からすれば、本件懲戒解雇は社会的相当性を欠くもので解雇権の濫用で無効とし、(本件口頭弁論期日において、Xに対し、二重就業を理由に懲戒解雇の意思表示がなされたが、就業規則で二重就業事態が解雇事由として規定されていないこと、Yが解雇期間中の賃金を支払わないこと等から解雇権の濫用に当たり無効とされた)、Xの労務遂行債務が履行不能になったことはYの責めに帰すべき事由に基づくものであるとして、請求が一部認容(将来分は却下)された事例。
参照法条 労働基準法90条
労働基準法106条
労働基準法89条1項9号
民法536条2項
体系項目 就業規則(民事) / 意見聴取
就業規則(民事) / 就業規則の周知
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 2000年8月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 9794 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例794号51頁/労経速報1750号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-意見聴取〕
〔就業規則-就業規則の周知〕
 本件就業規則が効力を有するか否かにつき検討するに、その作成の経緯は前記一11認定のとおりであり、被告において労働者の過半数を代表する者の意見を聴いたものとはいえないから、労基法90条の定める手続に欠けるものであると認められる。しかしながら、原告ら被告の従業員はA会社から転籍した者であり、前記認定のとおり、被告の原告に対する第1次解雇もA会社の就業規則を根拠規定として明示した上でされるなどしており、本件就業規則の内容は被告の従業員に対し実質的に周知されていたものと認められるから、前記手続の欠缺により本件就業規則が無効となるということはできないものと解される。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 原告が、第1次解雇が撤回されたとしても、復職後の勤務条件に不安を持ち、原告代理人を通じて被告に対し原告の勤務内容を明らかにするよう申し入れ、また、被告が第1次解雇を撤回した以上、解雇期間中の過去分の賃金をすみやかに支払うよう求めることは当然であるといえ、これに対し、被告は原告代理人弁護士に対し原告の今後の担当業務等を具体的に説明したり、明らかにするなどの対応は全くしないまま、直接原告本人に来社するよう強く求めるのみであったのであり、これら一連の事実を総合考慮すれば、原告が職務復帰命令に応ぜず就労しなかったとして、無断欠勤及び職務上の指示命令違反を理由としてされた本件懲戒解雇は、社会的相当性を欠くもので、解雇権の濫用に該当し、無効であるというべきである〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 被告が、原告がB会社において就労したこと及びC会社の代表取締役となったことが二重就業に該当するとしてした第2の懲戒解雇についてみるに、本件就業規則上、二重就業は服務規律違反には該当するが、二重就業自体が懲戒事由として規定されているものではないこと、原告は第1次解雇撤回にもかかわらず被告が解雇期間中の過去分の賃金を支払わないため生活費が不足し、日給制の臨時雇いとしてB会社でアルバイト勤務したにとどまること、また、C会社については貸金業を営む相当額の資金を原告が有していたとも認められず、原告がC会社から取締役報酬の支払を受けたこともないことからすれば、原告はC会社の代表者として名義を貸したにとどまると認められること等の事実関係に前記の第1次解雇撤回後の経緯を併せ考慮すれば、被告が原告に二重就業があるとしてした第2の懲戒解雇も解雇権の濫用にあたるものといわざるをえない。
 (三) よって、被告の原告に対する本件懲戒解雇及び第2の懲戒解雇はいずれも解雇権の濫用に該当し、無効なものと認められるから、原告は被告の従業員としての地位を有するというべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 労働者は債務の本旨に従った労務の提供として就労しなければ賃金を請求することはできないのが原則であるが(民法624条1項)、違法な解雇など使用者の責に帰すべき事由によって労務の提供が不能になった場合には、労働者は賃金請求権を失わない(民法536条2項本文)。ただし、同条項適用の前提としても労働者が債務の本旨に従った労務の提供をする意思を有し、使用者が労務の提供を受領する旨申し出れば労働者においてこれを提供できる状況にあることが必要であるというべきである。
 これを本件についてみると、前記認定のとおり、第1次解雇撤回後、原告は被告に対し、部長職の解任及び賃金の引下げは不当であると通知するとともに、職場復帰については、就労開始日、就労場所及び勤務内容の明示を求め、就労の意思を書面により通知して口頭による労務の提供をしていたものと認められ、本件復職命令自体を拒否する意思を表示していたことはなく、他方、被告は、復職後の原告の職務内容等の明示に全く応じなかったものであり、また、本件懲戒解雇及び第2の懲戒解雇後は、原告の就労を事前に拒否する意思を明確にしていたものであるから、原告の労務を遂行すべき債務の不履は被告の責に帰すべき事由に基づき履行不能になったものといえ、原告は被告に対する未払賃金請求権を有すると認められる。