全 情 報

ID番号 07601
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 三一書房事件
争点
事案概要  出版会社Yで総務・経理業務を担当していた労働者X(既に退職)が、退職届を提出したのに対し、Yをこれを受領し、Xの退職を承認した労働組合に対しても、取締役会もXの退職を承認する旨の文書を示した(退職金規程によると退職金の支払の条件は会社及び労働組合の承認となっている)うえ、Xからの要求に従って退職金の一部を支払い、残額の一部についての支払及び最終的な退職金の残額について協議する旨の約束をしていたが、その後、Yは、経理書類の提出を求める職務命令に違反したこと、在職中の行為に問題があったこと等を理由に、Xへの退職金の支払を見直す旨を述べ、退職金を支払わなかったため、Xが退職金の支払を請求する本件訴訟を提起したところ、右訴訟中にYは経理書類提出の職務命令違反等を理由に懲戒解雇する旨の意思表示をしたケースで、退職届に記載された期日をもって合意退職は成立しており、Yは退職を承認していることから、退職金規程に基づき退職金支払義務を負っており、Xの職務命令違反も認められないこと等から懲戒解雇も合理的理由がなく無効であるとして、Xの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 2000年9月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 15434 
裁判結果 認容
出典 労経速報1748号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 被告は、原告に対し、前記職務命令に違反したことを理由として、平成一〇年一二月一〇日付けで懲戒解雇にした旨主張し、また、平成一一年一〇月二五日、本件訴訟の口頭弁論期日において懲戒解雇にする旨の意思表示をしている。
 しかしながら、被告が、原告に対し、平成一〇年一一月二五日付けの通知書で、同年一二月一〇日までに経理書類の所在等に関する報告書を提出するよう要求し、右要求に応じなければ懲戒解雇をすることもあり得る旨述べたことは、前記一11のとおりであるが、右事実をもって、被告が原告に対して同年一二月一〇日付けで懲戒解雇の意思表示をした事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、平成一〇年一二月一〇日付け懲戒解雇が成立したということはできない。
 また、原告が、被告に対し、同年八月二七日、右職務命令に対して、「職務上必要なので、経理書類を全部引渡すことはできない」旨回答し、被告の了解を得たこと、その後、被告側から申し入れを受けた書類については引渡しに応じていることは、前記一7のとおりであるから、原告が右職務命令に違反したものということもできない。なお、被告は、原告が経理書類を隠匿した旨主張し、これに沿う証拠(被告代表者)が存するが、仮に何者かが経理書類を隠匿したとしても、原告が右隠匿に関与したことを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は採用することができない。
 さらに、就業規則三七条は、懲戒解雇をするに当たり組合との協議を要する旨定めているが、被告は、原告に対する懲戒解雇につき労働組合との協議を経ていない(被告代表者)。
 したがって、平成一一年一〇月二五日付けの懲戒解雇は、合理的な理由がないうえ、就業規則所定の解雇協議条項に違反しており、無効なものというべきである。
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 被告の退職金規定が、退職金支給の要件として、「組合および会社の承認を得て退職する時」と定めていること(二条一項)は、前記前提事実4のとおりであるところ、原告が平成一〇年八月末日付けで退職したことは、前記二のとおりであり、労働組合が同月二六日、被告が同月二八日、それぞれ原告の退職を承認したことは、前記三のとおりである。
 そして、右退職金規定が、退職金の支払時期について、退職後二週間以内に一括支給するが、但し、やむを得ない場合に限り、労使協議の上分割支給することがある旨定めていること(七条)は、前記前提事実4のとおりであるところ、被告が、原告に対し、同年九月、退職金について、同年一〇月に一五〇万円、同年一一月及び一二月に各二〇〇万円を支払う旨約したことは、前記一10のとおりである。
 さらに、被告主張の懲戒解雇が不成立又は無効なものであることは、前記四のとおりであり、原告の退職金請求が権利濫用に当たらないものであることは、前記五のとおりである。