全 情 報

ID番号 07618
事件名 雇用関係存続確認等請求事件
いわゆる事件名 東京貨物社事件
争点
事案概要  展示会場の賃貸等を業とする会社Yの営業本部長営業企画室課長の職にあった労働者Xが、A会社を設立し、友人と共同し又は単独でYと競合する業務を行いその対価を得ていたため、就業規則の規定(在籍のまま許可なしに他に就業しないこと等の服務規律に違反し情状が極めて悪質なとき出勤停止処分、会社の承諾なくして在籍のまま他に就職したときや業務上の地位を利用して私利を得たときに即時解雇する旨の規定)に基づいて、出勤停止処分を受け、その後解雇され、更にYは各取引先に対し、不都合な事情によりXを解雇した等を内容とする文書を送付したことから、本件解雇及び出勤停止処分は正当な理由を欠き違法かつ無効であるとして、(1)雇用契約上の地位確認及び賃金支払、(2)出勤停止処分の無効確認、(3)不法行為に基づく慰謝料の支払を請求したケースで、会社の業務と競合する会社を営んだ行為は就業規則の懲戒規定に該当し、出勤停止処分及び解雇は有効であるとして、(1)及び(2)についての請求が棄却されたが、(3)については会社の取引先への文書送付行為はXの名誉を毀損する意図で行なわれたものと解せられ、不法行為に当たるとして請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
民法709条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 解雇事由 / 二重就職・兼業・アルバイト
裁判年月日 2000年11月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 28322 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1754号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕
〔解雇-解雇事由-二重就職・兼業〕
 右によれば、原告はA会社を設立し、A会社の銀行預金口座入金にかかる仕事に関して、Bと共同し又は単独で被告と競合する業務を行いその対価を得ていたものであり、右は出勤停止処分の事由を定める就業規則七一条五号、六九条一項、四五条六号、解雇事由を定める二六条七号、七二条七号、一〇号に該当するというべきであるから、本件解雇及び懲戒処分は有効である。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 本件解雇及び懲戒処分は有効であるから、不法行為には当たらず、したがって原告の本件解雇及び懲戒処分が違法かつ無効であるとの主張に基づく慰謝料の請求は理由がない。
 2 しかし、本件解雇及び懲戒処分が有効であるからといって、被告が右事実を各取引先に文書で通知したことも直ちに不法行為に当たらないということはできない。たとえ真実であっても公然に事実を摘示してもって名誉を毀損する行為は不法行為に当たるから、被告の文書の送付が右に当たるかどうか別途検討しなければならない。
 前記一4(三)のとおり、被告は、原告を不都合な事情で平成七年九月一四日付けで解雇したこと、それまで原告を自宅待機としていること、退職後は原告の言動に責任は負いかねることを各取引先に通知している。右の通知文書(書証略)は、原告の行為そのものについては「不都合な事情」と記載するにとどまり、具体的な事実を摘示していないが、「原告の解雇」、「自宅待機」と記載し、事実を具体的に摘示している。そして、解雇や自宅待機は、それが事実であっても、右文書を読んだ各取引先が原告は何らかの責められるべき行為によって被告を解雇されたものと理解するのは容易に推認できるところである。そうだとすれば、原告は、このような文書を送付されることによって、名誉を毀損され、社会的に信用を失い、広告代理店業やイベント設営業を行う会社へ再就職したり、独立して営業を行うのが困難になることもまた、容易に推認できる。そして、特に原告が大学時代に被告でアルバイト従業員として勤務するようになって以来一貫して被告に勤務してきた(前記一1(二))という経歴に照らせば、原告は、再就職するにしても、独立するにしても、被告と同業あるいはこれに関連する業務を行う可能性が高く、それだけに右のような文書を、いわばその業界に流布される不利益は甚だ大きいといわなければならない。
 一方、被告からすれば、取引先との関係で、原告が担当していた顧客に対し、担当者の変更を通知する必要性は否定できないが、それ以上に原告を解雇等した事実を広く取引先に通知しなければならない必要性を認めるに足りる証拠はないことからすると、右のような文書の送付はことさら原告の名誉を毀損する意図で行われたものと解せられるのであって、被告の右文書の送付は不法行為に当たるというべきである。
 右に述べたような原告の被る不利益及び本件記録上認められる事情を総合的に考慮すれば、被告が原告に対し賠償すべき慰謝料としては三〇万円が相当と認められる。