全 情 報

ID番号 07622
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 大阪厚生信用金庫事件
争点
事案概要  信用金庫Yの関連会社へ出向中の労働者(少数組合のただ一人の組合員である)が、昭和五七年一一月に多数派労組との間で定年延長及び満五八歳到来の翌月以降の賃金を減額する旨の労働協約を締結し、Yが右労働協約と同内容の通達を出して全職員に回覧後、それに基づいて定年延長に伴う賃金減額を実施していたが、昭和五八年・平成元年の就業規則改定では、定年年齢を五八歳から六〇歳に延長する旨を明文化していたものの賃金減額の規定は設けず、平成二年の給与規定の改定によりはじめて右定年延長が明文化し、その後、平成九年に給与規定が改定され(本俸と資格級であった基本給を年齢給と職能給に区分し、五八歳以降の賃金減額対象を本俸から職能級に変更された)、月額の給与が毎月一〇万円以上減額されるにもかかわらず、代償措置もなかったことから、本件減額規定の改定は無効であるとして、(1)未払賃金の支払、(2)平成九年に改定された規定が効力を有しないことの確認の請求をしたケースで、本件就業規則の改定は定年延長に伴う人件費の拡大の抑制という経営上の必要性があるものの、非役職者である労働者に対して賃金という労働契約上の重要部分に関し、著しい不利益を課し、何ら代償措置もないことに鑑みれば合理性を欠き無効であるとして、(1)について請求が認容され、(2)については請求が却下された事例。
参照法条 労働基準法89条1項2号
労働基準法89条1項3号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 2000年11月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 2442 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1754号3頁
審級関係
評釈論文 ・労政時報3478号74~81頁2001年2月9日
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 平成二年時改定及び本件改定により設定された本件減額規定が、不利益変更にあたるとしても、労働条件の集合的処理を図るという就業規則の性質に照らせば、当該就業規則の変更がその必要性及び内容から判断して、合理的なものである限り、個々の労働者がこれに同意しないことを理由として、その適用を拒むことはできない。そして、右合理性の有無については、当該規定の変更により労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容、程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置の有無、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に対する一般的な状況等を総合考慮して決定される。〔中略〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕
〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 本件改定は前述のとおり、平成二年時改定をその前提とするものであるから、その合理性を判断するには、平成二年時改定の合理性を検討することになる。そして前記認定によれば、平成二年時改定は、本件労働協約に基づき、昭和五八年以降、実施されてきた五八歳以降の賃金減額を明文化したものである。
 昭和五八年当時、被告においては、定年延長に伴う人件費の拡大を抑制するために、定年延長後の五八歳以降の賃金を抑制する経営上の必要性はあった。
 本件減額規定は、「一定割合を減じて支給する」と規定し、右一定割合については、職務歴、能力等を参酌するというにとどまり、何ら減額率を明示するものではない。本件減額規定は、遡れば本件労働協約に基づくものであることから、最大四〇パーセントまで減額される可能性があるといえるが、これは同じ制度を採用する他の信用金庫における減額率が三〇パーセントであることからすると、より大きな不利益を課されうる可能性を含むものであることは否定しえない。そして、現実には、約一八パーセントから約三二パーセントの範囲内で賃金の減額が実施されているところ、被告には、原告のように非役職者であって、賃金中職能給部分の割合が高い労働者が存し、かかる労働者にとっては、本件減額規定が適用されることにより、役職者に適用された場合よりも、現実の手取額の五八歳以降の減少率がより大きくなるものとなっている。(証拠略)。そして原告に適用された減額率は約三〇パーセントであり、具体的にはその月額の給与が毎月一〇万円以上減額され、手取額で一五、六万円程度の額にしかならなくなり、賞与についても六〇歳定年時までの間約八〇万円余りが減額となり(証拠略)、これに定年時の賃金がその算定の対象となる雇用保険や厚生年金の受給額の減少をも考慮するならば、原告の受ける不利益は著しいものといわざるをえない。そして、かかる不利益変更に対して、何らの代償措置も設置されていない。
 確かに、本件では、被告における絶対的多数派組合である新組との労働協約が存在し、原告の所属する少数派組合である従組は、昭和五七年一二月一五日の被告による本件通達以降も、何ら被告に対し団体交渉の申入れ等を行わなかったこと、定年前の一定年齢以降については基準内賃金の七〇ないし八〇パーセントの賃金を支給するというのは、定年前の一定年齢以降の賃金減額の制度がある他の信用金庫における支給額の実績(七〇パーセントの賃金支給)に劣るものではないことなどの諸事情は認められる。しかし本件減額規定の内容は、原告のように非役職者である労働者に対し、賃金という労働契約上の重要部分に関し、著しい不利益を課し、その代償措置もないことに鑑みれば、なお合理性を欠くものといわざるをえない。
 従って、平成二年時改正及び本件改定については、その合理性を肯定することはできないから、本件減額規定は無効である。