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ID番号 07625
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 都南自動車教習所事件
争点
事案概要  自動車教習所の経営等を主たる目的とする株式会社Yに雇用され全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方労働組合・神奈川県自動車教習所労働組合Y自動車教習所支部に所属する組合員であるXら三八名が、昭和五三年以来、毎年のベースアップに関してはYと労使交渉を行い、その結果を労働協約として締結することによって、ベ・ア分が支給されていたが、平成三年度から平成七年までの各ベ・ア交渉で合意したベ・ア加算額につき労働協約として労組法一四条所定の書面協定書を作成することについては、平成三年に就業規則改訂により支部の合意なくして導入された新賃金体系にも合意することになるという理由でこれを拒否していたため、Yからは、書面作成という法所定の要件を充足しておらず労働協約としての効力が発生していないことを理由にベ・ア分が支給されなかったことから、ベ・ア分についてはすでに労使合意が成立しており賃金請求権は発生しているとして、主位的請求としてベ・ア分の賃金支払を、予備的請求として同未払は不当労働行為に該当するとして不法行為による損害賠償の支払を請求したケースで、XらとYとの間で、本件訴訟における訴状及び往復文書において各年度のベースアップについて合意成立の事実を確認したのであるから、往復文書に記載された右合意は、規範的効力の限度で有効な労働協約の効力を有するとして主位的請求が認容された事例。
参照法条 労働組合法14条
労働基準法115条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 協約の成立と賃金請求権
雑則(民事) / 時効
裁判年月日 1996年6月13日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 806 
裁判結果 認容、一部棄却(控訴)
出典 民集55巻2号416頁/労働判例706号60頁/労経速報1780号12頁
審級関係 上告審/07735/最高三小/平13. 3.13/平成12年(受)192号
評釈論文 古川陽二・労働法律旬報1418号28~33頁1997年10月25日
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-協約の成立と賃金請求権〕
 労働組合法一四条の趣旨が、後日当事者間に紛争が生じることを防止するため、労働協約の締結に当たり当事者をして慎重を期せしめ、その内容の明確化を図るとともに、当事者の最終的な意思を明確にすることにあることを考慮すると、右往復文書(訴状及び各準備書面)それ自体から当事者の最終的な意思の合致(ベースアップの合意成立)が明確に確認されるのであるから、右往復文書に記載された右合意は、規範的効力の限度で有効な労働協約としての効力を有するものと解するのが相当である。
 被告は、支部は賃金規程の別表「初任給および初号賃金」に基づいて同表記載の「初任給一三万五〇〇〇円」を基準額とすることを拒否し、ベースアップ加算額についての合意があっただけであるから、ベースアップ後の支給額が具体的明確に確定しうる程度の合意には至っていないと主張する。しかしながら、支部が平成三年度の賃金引き上げ交渉においては、右「初任給一三万五〇〇〇円」を基準額とすることを拒否したことは確かであるが、同年度の夏期賞与額についての協定書(証拠略)により、賃金規程の別表「初任給および初号賃金」の「平成三年度時点における初任給は一三万五〇〇〇円とする」との定めについても、被告と支部との合意が成立していると認めるべきであることは前記のとおりであるから、右主張は採用することができない。
 (六) そうすると、被告の前記準備書面副本が原告ら代理人に交付された日である平成七年一二月一九日(当裁判所に顕著)に、被告と支部との間で、少なくとも規範的効力の限度で有効な労働協約が成立したものというべく、これにより、本件係争各年度のベースアップの加算額が被告と原告ら各人との間の労働契約の内容となったというべきであるから、その後に到来した最初の賃金支給日である同年一二月二七日を履行期とする、原告らの本訴請求に係る各未払賃金等の支払請求権が発生したものというべきである。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 本訴請求に係る原告らの未払賃金等請求権の履行期は、平成七年一二月二七日であるから、その消滅時効が完成していないことは明らかである。