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ID番号 07629
事件名 戒告処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 熊本人勧スト処分取消訴訟控訴審判決
争点
事案概要  熊本県下の市町村立小学校又は県立学校に勤務する教職員であり、県教職員組合又は県高等学校教職員組合に所属するXら三八九名が、政府が昭和五七年度人事院勧告について全面凍結という決定を下したことから、凍結の撤回及び人事院勧告の全面実施等を求めて一、二時間の争議行為を実施したところ、県教育委員会Yは、地方公務員の争議行為を禁止した地公法三七条一項違反を理由に、同法二九条一項一号に基づきXらを戒告処分にしたため、Xらが国に対し、地公法三七条一項は憲法二八条等に違反し、また公務員の労働基本権制約の代償措置である人事院勧告の不実施について当局側が誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くさなかったときは、Xらの行為は相当な手段、態様によるものである限り、憲法二八条によって保障された争議行為として認められるから、本件処分は地公法三七条一項の適用上憲法二八条に違反し、また社会観念上著しく妥当性を欠くものであるとして、本件処分の取消しを求めたケースの控訴審(X控訴)で、原審と同様に、地公法三七条一項は合憲としたうえで、当局側は人事院勧告の不実施につき法律上及び事実上可能な限りのことは尽くしたものと評価できるから、地公法三七条一項の適用違憲も認められず、また本件処分は裁量権の濫用にも該当しないとして、Xらの控訴が棄却された事例。
参照法条 地方公務員法37条1項
地方公務員法29条1項1号
日本国憲法28条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1998年11月20日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (行コ) 1 
裁判結果 棄却(上告)
出典 タイムズ1026号191頁
審級関係 上告審/07689/最高二小/平12.12.15/平成11年(行ツ)156号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 公務員は、憲法二八条にいう勤労者として同条が規定する労働基本権の保障を受けるが、全体の奉仕者としての地位及び職務内容の公共的性格から、労働基本権の保障について一定の制約を受け、地方公務員の場合、労働基本権の制約に見合う代償措置として、勤務条件に関する利益保障(地公法二四条ないし二六条等)や身分保障(同法二七条以下)に関する規定が設けられているほか、国家公務員の人事院制度に対応する人事機関として、類似の性格を持つ人事委員会又は公平委員会の制度が設けられている(同法七条以下)のであるから、地公法三七条一項による争議行為の禁止は、詰まるところ国民全体の共同利益のためのやむを得ない制約というべきであって、地公法三七条一項は、憲法二八条に違反するものではないと解するのが相当である(最高裁判所昭和四四年(あ)第一二七五号同五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁参照)。〔中略〕
 地方公務員に対する懲戒処分の場合、懲戒権者は、公正の原則(地公法二七条一項)、平等取扱いの原則(同法一三条)及び不利益取扱いの禁止(同法五六条)の規定に則り、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができる。そして、その判断は、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり、懲戒権者がした懲戒処分は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲にあるものとして、違法とはならないものというべきである。したがって、裁判所が懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきである(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。