全 情 報

ID番号 07644
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 三田尻女子高校事件
争点
事案概要  高等学校を設置する学校法人Yで教育職員(体育科、音楽科、商業科、養護)として勤務してきたXら四名が、Yでは二年前ほどから、生徒数の減少と経営難等を理由に希望退職の募集やXらを含む教職員一〇名に退職金二割増を条件とする指名退職勧奨が実施されていたが、その約二ヵ月後、財務状況が極めて厳しいことを理由に即時解雇されたことから(本件整理解雇前後には講師が新たに雇用されていた)、本件解雇は整理解雇の要件を欠いた無効なものであるとして、Yの教育職員たる地位の保全及び賃金の仮払を申立てたケースで、本件整理解雇は、人員削減の必要性、解雇回避努力、妥当な解雇手続等の要件を満たさず、人選基準の合理性を検討するまでもなく無効であるとして、地位保全及び賃金仮支払(一名については八割のみ)について申立てが一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 2000年2月28日
裁判所名 山口地
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (ヨ) 17 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例807号79頁
審級関係
評釈論文 鶴崎新一郎・法政研究〔九州大学〕69巻1号141~149頁2002年7月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 (一) 一般に、使用者の財政状態の悪化に伴い、人件費削減のための手段として行われるいわゆる整理解雇は、労働者がいったん取得した使用者との雇用契約上の地位を、労働者の責に帰すべからざる事由によって一方的に失わせるものであり、それだけに、労働者の生活に与える影響も甚大なものがあるから、それが有効となるためには、〔1〕経営上、人員削減を行うべき必要性があること、〔2〕解雇回避の努力を尽くした後に行われたものであること、〔3〕解雇対象者の選定基準が客観的かつ合理的であること、〔4〕労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき、納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議すべき義務を尽くしたこと、以上の各要件すべていずれも充足することが必要である。
 そして、本件のごとく、使用者たる債務者が私学である本校の設置・経営者であり、労働者たる債権者らがその教員であるような場合、前記第二、四1(二)で債権者らが主張するとおり、安易な教員数の削減は、教育の質の低下を来たし、そのしわ寄せを生徒に押しつける事態を生じさせるおそれがあることから、右教員の整理解雇に当たっては、右に挙げた整理解雇の制限法理が、一般私企業の場合に比してより厳格な判断基準の下に適用されるべきと解される。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 (3) 右によれば、前記2(二)(1)で一応認定した各事実を前提としても、なお、債務者については、本件各解雇に際し、将来的予測として帰属収入の恒常的な減少が避けられない状況にあることから、その資産を維持すべく、消費支出、特にその中でも大きな割合を占める人件費の削減が必要であるとの認識を有してこれに当たっていたということ以上の点は指摘し難いところである。
 かえって、前記(2)で一応認定した諸事情によれば、債務者は、平成8年度における人員削減及び本件各解雇以前の希望退職申出状況から、同各解雇時点において、直ちに指名解雇の手段による更なる人員削減を行わずとも、継続的に希望退職者を募りつつ、一定期間、それ以後における長期的な視野に立った人件費削減及び収入増加に向けた取組みに関する協議を十分に尽すなどの手段を講ずる一方で、右期間内の消費支出超過分については、比較的優良なその資産の一部を取り崩してこれを充てることにより、相応の程度柔軟かつ弾力的に対処し得るだけの財政的な体力を有していたと思料されるのである。
 (三) かくして、本件の場合、債務者につき、本件各解雇に至るまでに、希望退職者を募る方法により指名解雇を避けるべく配慮をしたことは一応認めることができるものの、前記第二、四1(一)(1)ア及びイにおける債務者の各主張を前提としても、同各解雇当時、客観的に見て、債権者らをして、その意思とは無関係に、債務者の教員たる地位を一方的に失わせるという、平成8年度に続き、これと一環をなすとみられる再度のかつ大幅といってよい人員削減をしなければならない程に、その財政状況が悪化した状況にあり、かつ、債務者が同各解雇を回避すべく努力を尽くした上でこれらをなしたとの各疎明は、いずれも足りないというべきである。加えて、前記第三、一1(二)で一応認定したところによれば、本件各解雇に際して、債務者(理事会及びA校長を含む。)が、妥当な手続を尽くしたとも解し難い。
 そして、如上検討したところを、前記2(一)に掲げたより厳格な判断基準に則った4要件に照らした場合、本件各解雇は、右4要件のうち、〔1〕、〔2〕及び〔4〕を備えていないとみられるので、明らかに、右4要件すべてをいずれも充たしているとはいえないと判断するのが相当である。
 3 したがって、右要件中〔3〕につき検討するまでもなく、本件各解雇は、許容される整理解雇の場合に当たらず無効であるという債権者らの主張は、一応理由があると解するので、本件各仮処分における各被保全権利は、いずれもこれらを肯定することができる。〔中略〕
〔解雇-解雇と争訟・付調停〕
 同各解雇により、債務者の教育職員として扱われず、右各賃金が全く受けられないとすれば、債権者らは、この間、いずれも、各家族を含むそれぞれの生活に著しい支障を来たし、回復し難い損害を生じるおそれがあると思料されること、以上のごとく一応認定判断することができる。
 (二) また、前記第三、一2(二)(2)ウで一応認定したごとく、本件各解雇は、債務者において、賃金の高い教員の一部に代えて、これの安い講師に転換することによる人件費削減の方針を採用したことによるものと推察され、現に、前記一1(四)(1)で一応認定したとおり、債務者は、同各解雇後、債権者X1及び同X2らの担当していた各教科を担当するそれぞれの講師を雇用しており、かつ、審尋の全趣旨によれば、債権者X3の担当していた養護教員は他に1名現存している状況にあること、さらに、審尋の全趣旨によれば、債権者らは、今後、他校の教育職員として再就職したり、他業種に転職することも困難な状況にあると一応認められること、以上の諸点を指摘することもできる。
 (三) 右に加えるに、前記二1(一)に掲記した各疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、前記第二、四2(一)(1)イにおける各事由も一応認定し得ることを併せ考慮すると、本件においては、債権者らにつき、賃金仮払の各仮処分とは別に、それぞれにつき、債務者の各教育職員たる地位を保全すべき特段の必要性があると一応解するのが相当である。
 よって、本件各地位保全仮処分の必要性は、これらを肯定することができる。