全 情 報

ID番号 07649
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 中央労基署長(東京工事警備)事件
争点
事案概要  警備会社に雇用されていたAが、道路の工事現場において交通整理の警備業務に従事中、走行中のトレーラーがはね上げたメッセンジャーワイヤーの末端が頸部に当たって、頸部損傷等の傷害を負い、喉頭摘出手術を受けた後、転院先でも外傷性両側内頚動脈閉塞、左広範囲脳梗塞、右半身麻痺、咽頭摘出、咽頭部捻挫及び永久気管瘻と診断されて、入院治療を受け、その間、労災保険法に基づき療養保障給付及び休業補償給付の支給を受けていたところ、事故から約五年後に、肺がんから併発した肺炎による肺機能不全及び心不全により死亡したため、Aの妻が中央労基署長Yに対し、労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を請求したが、不支給処分とされたことから、Aの死亡は業務上のものであるとして、Aの子Xら二名(Aの妻は死亡)が右処分の取消しを請求したケースで、Aは業務中の事故によって負った傷病等の療養中に肺がんに罹患し、肺がんから併発した肺炎によって死亡するに至ったが、全証拠によっても、遅くともAが肺炎を発症するまでの時点において本件傷病等が増悪してAが死亡することが確実であったことを認めることに足りず、Aは業務災害や業務とは全く無関係に発症した別の疾病によって死亡したといわざるを得ないから、Aの死亡は業務に内在する危険の現実化したものとみることはできないのであり、Aの死亡と業務との間に相当因果関係があるということはできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法12条の8第1項
労働基準法79条
労働基準法80条
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 遺族補償(給付)
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 葬祭料
裁判年月日 2000年4月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 369 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例799号62頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 「労働者が業務上死亡した場合」に当たるというためには労働者の死亡と業務との間に相当因果関係があることが必要であり、労働者の死亡が業務に内在する危険の現実化したものと認められる場合に労働者の死亡と業務との間に相当因果関係があると解するのが相当である。右相当因果関係を肯定するには、労働者の死亡と業務との間に条件関係が存在することが前提となる。
 2 労働者が業務災害により療養中に業務上の負傷又は疾病とは別の疾病を発症し、その別の疾病が増悪して死亡するに至った場合において、その別の疾病が、業務災害とは別個のものであり、業務とは無関係に発症したと認められ、かつ、その別の疾病が業務上の負傷又は疾病の存在によってその自然的経過を超えて著しく増悪したために労働者が死亡したという事情が認められないときには、その別の疾病の発症又は増悪は業務に内在する危険の現実化したものとみることはできない。しかしながら、右の場合において、遅くとも労働者が業務災害により療養中に業務上の負傷又は疾病とは別の疾病を発症した時点までに、その労働者は療養中にいずれ業務上の負傷又は疾病が増悪して死亡することが確実であったというときには、その労働者の死亡の直接の原因はその別の疾病であるとしても、療養中にいずれ業務上の負傷又は疾病が増悪して死亡することが確実であるという点に着目すれば、その労働者の死亡を業務に内在する危険の現実化したものとみることが可能である。
 被告が前記第三の二2(一)(5)で指摘する労基法及び労災保険法の規定はいずれも労働者の死亡を業務に内在する危険の現実化したものとみることを必ずしも妨げるものとはいえない。本件はこの見地からも検討する必要がある。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-葬祭料〕
 なお、原告は、右の可能性にとどまらず、前掲最高裁平成8年4月25日第一小法廷判決を援用して、業務上の傷病により労働能力を全部喪失して療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が、当該傷病の発生時に当該傷病以外の原因により死亡する具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がないにもかかわらず、当該傷病以外の原因により死亡した場合についても、労働者の死亡は業務と相当因果関係のある死亡として労働者の遺族に遺族補償給付を行うものと解するのが相当であると主張する。
 しかし、遺族補償給付及び葬祭料は労働者が業務上死亡した場合に支給されるのであり、業務災害により労働能力を全部喪失したというだけでは右の場合に該当するといえないから、前掲最高裁平成8年4月25日第一小法廷判決を適用する前提を欠くものというべきである。原告の主張は採用できない。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 3 本件において、
 (一) 被災者が、本件業務中の事故によって負った本件傷病等の療養中に肺がんにり患し、さらにこれに伴う換気不良のために発症した肺炎が原因で死亡したことは前記のとおりであって、本件全証拠によっても右肺がん及びこれに併発した肺炎が業務上の本件傷病等に起因して発症したことを認めるに足りない。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 (二) 被災者は、本件業務中の事故によって負った本件傷病等の療養中に肺がんにり患し、肺がんから併発した肺炎によって死亡するに至ったが、本件全証拠によっても、遅くとも被災者が肺炎を発症するまでの時点においていずれ本件傷病等が増悪して被災者が死亡することが確実であったことを認めるに足りない。
 (三) 以上によれば、被災者は業務災害や業務とは全く無関係に発症した別の疾病によって死亡したといわざるを得ないから、被災者の死亡は業務に内在する危険の現実化したものとみることはできないのであって、被災者の死亡と業務との間に相当因果関係があるということはできない。