全 情 報

ID番号 07662
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 建設省中部地方建設局(準職員)事件
争点
事案概要  愛知国道工事事務所長により、非常勤職員として任用され、昭和四六年に中部地方建設局長によって行政職(二)五等級(常勤労務者)に転任された以後、給与についても一般職の職員の給与等に関する法律六条一項一号ロに規定する行政職俸給表(二)の適用を受けてきた定員外職員たる準職員(行(二)職員)Xが、平成四年に法六条一項一号イに規定する行政職俸給表(一)を適用される定員内職員(行(一)職員)に任用されるまでの間、恒常的に行(一)表適用職務に従事してきたため、このような場合、任命権者としては担当職務の実態に適合させるためにXを行(一)職員に任用すべき義務があり、仮に人事権の行使が裁量事項であるとしても、行(一)職員に任用させることなく恒常的に行(一)表適用職務に従事させることは裁量権の著しい逸脱ないし濫用に該当するから、行(一)職員として任用しなかったことは違法であり、あるいは行(二)職員をして恒常的に行(一)適用職務に従事させることは違法であるとして、国に対し、主位的に国家賠償法による損害賠償請求権に基づき、昭和五五年には転職試験により行(一)職員に任用できたはずであるとして、以後一二年分の行(一)職員との賃金差額分及び慰謝料の支払と、建設省等の広報誌への謝罪広告の掲載を、予備的に不当利得返還請求権に基づき、右賃金差額分の支払を請求したケースで、中部地方建設局長がXを行(一)職員に任用しなかったことが、人事裁量権の逸脱・濫用に当たらないが、行(二)職員に職務命令により、本務として恒常的に行(一)表適用職務を担当させ、これに従事させることは、給与の根本基準に違反し、給与法等によって保障された法定の勤務条件を侵害するものであって違法な職務命令なるとし、Xがその官職に比し、複雑、困難及び責任の度において、より重い職務に従事したことによる精神的及び肉体的苦痛こそが損害であるというべきであるとして、慰謝料請求が一部認容され、謝罪広告掲載請求については棄却された事例。
参照法条 国家賠償法1条
国家公務員法62条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2000年9月6日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 622 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例802号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 職員の給与については、国公法62条において、給与の根本基準として、「その官職の職務と責任に応じてこれをなす」ものと規定し、職務給の原則を明らかにするとともに、職員の給与は法律に基づいて決定するとして給与法定主義が定められ、給与準則こそいまだ制定されていないものの、現在、これに代わる役割を果たしている給与法において、職員の受ける俸給は、その職務の複雑、困難及び責任の度に基づき、かつ、勤労の強度、勤務時間、勤労環境その他の勤務条件を考慮したものでなければならないとし、具体的には俸給表を適用することによって決定されており、官職の任用と俸給の決定は俸給表に従って一体として行われているものである。
 こうした俸給表は、職務の種類、態様等が共通かどうか、級の区分あるいは俸給の幅を共通とすることが可能かどうか、適用される職員数が相当数あって独立の俸給表とする価値があるかどうかなどについて検討した結果定められているものであり、職員の従事する職務の種類、態様等によって、まず俸給表の種類が決定され、次に、職員の級及び号俸の決定により、その俸給が具体的に確定されるものであるが、官職の任用は、俸給表に従ってなされなければならず、職務分掌を決定し、職員ごとに本務となる担当職務を割り振り、職務命令を発するについても、俸給表に基づく官職の分類に従ってなされなければならないものである。職員においても、法律、命令、規則又は指令による職務を担当する以外の義務を負わないとされているが(国公法105条)、これは、任用された官職外の職務について義務を負わないとの趣旨を含むものである。
 もとより、併任発令することにより、本務外の職務を行わせることは可能であり、職務と関連性又は付随性のある業務、臨時的な応援業務、緊急時の応急措置業務を命ずることが直ちに違法となるわけではないが、行(二)職員に対し、職務命令により、本務として恒常的に行(一)表適用職務を担当させ、これに従事させることは、給与の根本基準に違反し、給与法等によって保障された法定の勤務条件を侵害するものであって、違法な職務命令となるというべきである。〔中略〕
 原告は、行(二)職員の官職にあったにもかかわらず、違法な職務命令により、本務として恒常的に行(一)表適用職務を担当し、その職務を遂行してきたところ、給与については行(二)職員としての俸給を受けたにとどまるものであり、その遂行した職務の複雑、困難及び責任の度からして、これにふさわしい給与の支払を受けていなかったとはいえるとしても、他方で、行(一)職員に任用される法的権利を有していたわけではないこと、公務員の給与については職務給の原則が定められているとはいえ、同一労働同一賃金の原則が保障されているわけではなく、本務として恒常的に行(一)表適用職務を行ったからといって、行(一)表による俸給請求権が発生するわけではないこと、個々の職員の遂行する職務の質及び量は、個々人の能力、知識、経験等に左右される上、職場における人員配置の状況、業務の状況等により繁忙の程度にも差があるところ、これらが俸給に直ちに反映されるわけではなく、俸給は、あくまで、任用された官職の地位に対応して発生するものであることなどを総合的に考慮すれば、原告が提供した労務の価額を行(一)表の俸給表によって算定してその損害を評価することは相当とは言い難く、本件においては、むしろ原告がその官職に比し、複雑、困難及び責任の度において、より重い職務に従事したことによる精神的及び肉体的苦痛こそが損害であるというべきであり、その慰謝料を算定して賠償させるのが相当である。