全 情 報

ID番号 07667
事件名 地位保全仮払仮処分申立事件
いわゆる事件名 揖斐川工業運輸事件
争点
事案概要  貨物自動車運送業を主たる業として株式会社Yが有する六つの営業所のうち関東唯一のA営業所に勤務し、労働組合の組合員であったXら六名が、Yでは総売上高及び総利益が減少傾向にあり、定年退職者の再雇用の中止、新規採用中止、役員報酬・管理職等の給与削減等が行われていたものの、A営業所でも総利益が赤字に転じたため、Yは希望退職募集とともに、A営業所を閉鎖し、同営業所従業員の合意退職に向け労働組合と団交を実施し、交渉決裂時に解雇する旨の決定をしたが、その後の団交ではA営業所の閉鎖及び同営業所従業員の退職・解雇に関して何ら言及せず、臨時職場会において初めて従業員に対してその旨を口頭で説明したところ、労働組合はA営業所の閉鎖及びその従業員の退職に関する協力を拒否したため、Xらは解雇されたことから、本件解雇は整理解雇の要件を欠き、また不当労働行為に該当するとして、雇用契約上の地位の保全及び賃金の仮払いを申立てたケースで、経営を立直す必要性があったことは否定できないがA営業所を閉鎖してその従業員全員を解雇するまでに悪化していたかどうかはにわかに判断し難く、仮に人員整理が必要であったとしても、整理解雇の他の要件を欠いているから、解雇権を濫用したものであり無効であるとして、雇用契約上の地位の保全及び本案判決確定までの賃金の全額の仮払が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年9月21日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 決定
事件番号 平成12年 (ヨ) 72 
裁判結果 認容
出典 労働判例801号64頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 整理解雇が有効といえるためには、〔1〕債務者に人員整理の必要性があること、〔2〕債務者において解雇を回避するための努力を十分に尽くしたが解雇を余儀なくされるに至ったこと、〔3〕解雇の対象となる人選が合理的であること、〔4〕債務者において組合又は従業員らに対して十分な説明をし、協議を経たことが必要と解される。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 まず、人員整理の必要性について検討するに、前記認定のとおり、本件解雇当時、債務者の総売上高及び総利益が減少して営業成績が悪化しており、経営を立て直す必要性があったことは否定できない。
 しかしながら、A営業所のこれまでの営業成績、A営業所と他の営業所等との比較によっても、債務者の現在の経営状態がA営業所を閉鎖してその従業員全員を解雇するまでに悪化していたかどうかはにわかに判断し難いところである。そして、人員整理が仮に必要であったとしても、以下のとおり、本件においては、整理解雇の他の要件を欠いているというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 〔1〕債務者は、A営業所の閉鎖及びA営業所従業員の退職・解雇の決定に至るまで、定年退職者の再雇用の中止、新規採用の中止、役員報酬、管理職・一般職の給与の削減、昇給の停止、諸経費の削減及び希望退職者の募集を行っているものの、退職・解雇という不利益を受けるA営業所従業員に対して、配置転換、関連会社への出向、一時帰休の募集を一切行っていないこと、〔2〕債務者の行った希望退職者の募集は、その募集期間が1か月と短期間であり、退職条件は加給金を含め従業員退職金規程に定める会社都合による退職の場合と同一の額であること、〔3〕債務者は、右希望退職者の募集期間満了前にA営業所の閉鎖及びA営業所従業員の退職・解雇を決定していることに鑑みれば、債務者が、本件解雇時点において、本件解雇を回避するための努力を十分に尽くしたものということはできない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 〔1〕債務者は、平成12年3月15日に右決定を行ったにもかかわらず、同月23日に行われた分会との団体交渉の際には、賃上げ、36協定について話合いをしたのみで、A営業所の閉鎖及びA営業所従業員の退職・解雇については一切言及せず、同月30日に至り、債権者らに対して、突如としてこれを告知し、翌31日には、文書で本件解雇の意思表示を行っていること、〔2〕債務者は、債権者らに対して、右決定を告知するに当たり、その必要性を説明しているものの、口頭によるものであり、しかも、具体的な説明をしたとは認められないこと、〔3〕債務者は、本件解雇後、分会との間で4回にわたり団体交渉を行っているが、本件解雇の撤回はできないとの回答に終始し、分会から、A営業所と他の営業所の業績を比較した文書の開示及び代替案の提示を求められたにもかかわらず、これに応じていないことに鑑みれば、債務者が、組合又は従業員に対して、十分な説明・協議を経たものということはできない。
 4 以上によれば、本件解雇は、整理解雇の要件を欠くものであり、したがって、解雇権を濫用したものであるから無効である。