全 情 報

ID番号 07675
事件名 遺族給付不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 能代労基署長(日動建設)事件
争点
事案概要  新潟市内のN建設に鳶職として雇用されていたAら三名は、秋田県能代市の火力発電所建設工事の施行に伴い、新潟県内の自宅に家族を残し工事現場から九キロメートルの能代市内の寮で単身赴任していたところ、クレーン修理による工事中断が中断したため、休日を利用し自宅へ帰省することとし、休日の前日の午後、工事現場からN建設所有のワゴンで直接自宅へ出発し(自宅から工事現場:二六〇~二九〇キロメートル・自動車で片道六時間以上)、自宅で休日を過ごしたが、N建設から鳶職の危険性ゆえに災害防止のために就労日の前日には寮に戻って充分な睡眠をとるよう指示されていたこともあって、翌日の就業に備えるため、休日が終わる日の午後に再びワゴン車に同乗して寮へ向かっていたが、その途中に、路面の凍結によりスリップして対抗車線の欄干を破って道路から転落し全員が死亡したことから、Aらの妻Xらが、右死亡を通勤によるものである等として能代労基署長Yに遺族給付等の請求を行ったが、本件事故当時の行政解釈(平成三・二・一基発七四号)に照らしAらの自宅から本件寮までの移動の所要時間及び距離が片道三時間以内・二〇〇キロメートル以内の要件を満たしていないこと、自宅から寮への移動は、住居と就業の場所と間の事故ではなく通勤災害の要件を充足しないとして不支給処分を受けたため、Yに対し、自宅はこの「住居」にあたり、本件寮は本件工事現場と一体となって業務を遂行するための付帯施設であり「就業の場所」に該当し通勤災害に該当する等主張して、右処分の取消しを求めたケースで、本件寮は「住居」であるとしながらも、「就業の場所」へ向かう行為と同視しうるとし、本件事故は通勤災害に該当するとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項2号
労働者災害補償保険法7条2項
労働者災害補償保険法7条3項
体系項目 労災補償・労災保険 / 通勤災害
裁判年月日 2000年11月10日
裁判所名 秋田地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行ウ) 11 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例800号49頁
審級関係
評釈論文 ・労政時報3478号74~81頁2001年2月9日/三柴丈典・平成13年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1224〕230~232頁2002年6月/小畑史子・労働基準53巻7号36~41頁2001年7月/西村健一郎・民商法雑誌124巻6号93~100頁2001年9月
判決理由 〔労災補償・労災保険-通勤災害〕
 1 既に認定したところによれば、本件において、被災者らは、本件工事現場における鳶職としての作業に従事していたものであるから、本来的には、本件工事現場が、業務を行う場所としての「就業の場所」となることは明らかである。
 そして、被災者らは、本件工事に従事するための拠点として、本件寮に居住し、ここで日常生活を営んでいたのであるから、本件寮が被災者らの「住居」となることもまた疑いを入れないところである。
 なお、原告らは、本件寮も「就業の場所」となると主張し、右一2のとおり、これに沿う証拠もあるが、既に認定したところによれば、本件寮は、被災者らが本件工事に従事する期間の宿舎としてN建設が借り上げたものであり、宿舎としての設備を有するにすぎないものであるから、特段の事情がない限り、本件寮を「就業の場所」とみることはできないところ、本件寮における生活がN建設の労務管理下にあるとする右の証拠は、既に説示したとおり、採用することができない。また、本件寮において、業務となるミーティング等を行っていたとする証拠もあるが、仮にそのとおりであったとしても、これによって本件寮が「就業の場所」となるのは、右のミーテイング等を行っている時間帯に限った一時的なものであるというべきであり、既に認定したとおり、本件事故当日には、本件寮において右のミーティング等が予定されていたのではなかったから、本件寮に向かっていた被災者らは、ミーティング等の行われる「就業の場所」に向かっていたものということはできず、したがって、この点においても、本件寮を「就業の場所」ということはできない。
 結局、本件寮を本来の「就業の場所」ということは困難である。〔中略〕
 本件事故当時の行政解釈によっても、一定の要件を満たして週末帰宅型通勤と認められる場合には、被災者らの自宅もまた「住居」と取り扱われてきたものであるが、法7条2項が、通勤について、「就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」と定めていることに照らすと、本来、単身赴任者らの生活の本拠は家族らの住むそれぞれの自宅であるから、単身赴任者らが、日常的には自宅を離れた「就業の場所」の近辺の「住居」から通勤しているとしても、休日等を利用して「就業の場所」と家族らの住む自宅との間を往復しているとすれば、これが反復・継続するものと認められる限り、法の定める右の通勤の定義に該当し得るとするのに妨げはないというべきであって、右の自宅もまた「住居」になるというべきである。
 したがって、被災者らについても、週末帰宅型通勤を行っていたものと認められる場合には、被災者らの新潟県内の自宅もまた「住居」に該当することとなる。〔中略〕
 被災者らは、休日の前日の午後に本件工事現場を出発して自宅に戻り、就労日の前日の昼ころ自宅を出て本件寮に向かう型(ママ)で帰省をしていたものであるが、被災者のうち亡A及び亡Bは本件事故発生日を含む週以前の12週間のうち6週間の週において、亡Cは同じく5週間の週において、いずれも週1回以上自宅に帰っていたのであるから、右の帰省は反復・継続して行われていたものということができる。
 したがって、原告らの主張するように、本件寮に向かって帰任する行為が、「就業の場所」に向かう行為と同視し得るとすれば、被災者らも週末帰宅型通勤をしていたものということができる。〔中略〕
 本件寮は、N建設が請け負った本件工事を支障なく遂行するために、本件工事現場が従業員の自宅とは遠隔地にあることから、従業員の宿舎を確保する必要に基づいて、本件工事の期間中に限り、N建設が借り上げたものであって、本件寮に関わる費用については、N建設が一切負担していたのであるから、本件寮は、N建設の事業の運営上の必要から設けられたものであるということができる。
 したがって、本件寮は、N建設の業務の必要に基づいて設けられたもので、本件工事現場と一体となって業務を遂行するための付帯施設であるというべきである。〔中略〕
 N建設の従業員らが真に自由な生活を営み得るのはそれぞれの自宅であるというべきであるから、このような従業員の帰省の必要性には、他の一般の単身赴任者とは異なった重い意味があるというべきであり、このような生活状況にある従業員らが、帰省を終えて、自宅から本件工事現場と一体となった付帯施設である本件寮に向かう行為は、まさに「就業の場所」に向かうのと質的に異なるところがないというべきである。〔中略〕
 以上のとおりであるから、本件においては、本件事故当時、被災者らが、その自宅から本件寮に向かって移動していたのは、「就業の場所」に向かっていたものと同視し得るものというべきである。
 したがって、右三において説示したとおり、被災者らは、週末帰宅型通勤を行っていたものというべきである。〔中略〕
 通勤災害に対して保護を与えようとする法の趣旨は、通勤が業務と密接に関連して行われるものであることから、これに内在する危険から労働者を保護しようとするところにあるものと解されるから、その移動が業務と密接に関連して行われていることを要するものであり、日常的に日々反復して行われる通勤に関しては、就業を開始する時刻ないしは就業を終えた時刻からかけ離れた時間に移動するのは、一般的には業務との密接な関運性を失わせるものというべきである。
 しかしながら、法は、その往復行為が「就業に関して」行われることを求めているのであって、右のような業務との密接な関連性が認められれば足りるというべきであるから、時間的に相当な間隔があるか否か、被告が主張する直行直帰であるか否かという形式的な面のみから、右の関連性を判断しなければならないものではないと解すべきである。〔中略〕
 本件において、被災者らは、鳶職という危険な業務に、翌日の午前8時から従事することを目的として、十分な睡眠をとって体調を整えるために、前日から本件寮に向かっていたものであり、既に説示したとおり、前日の夕刻までに本件寮に帰任せよという業務命令があったものとまではいえないとしても、N建設においては、災害防止などのために、休日に帰省した場合にも、就労日の前日には本件寮に戻り、十分な睡眠をとった上で就労するように、常日頃から従業員を教育していたところであるから、被災者らは、まさに、就業に不可欠な行動として、就労日の前日に移動していたものというべきこととなる。
 そして、被災者らが、本件事故当時、翌日の就労とは全く関係のない目的で移動していたことなどを窺わせる事情はなく、そのような事情の主張・立証もないから、少なくとも本件のように、週末帰宅型通勤をするに際し、鳶職という危険な業務に従事することに備えて、十分に体調を整えるため、就労日の前日に本件寮に帰任しようとしていた場合には、その移動は、業務に密接に関連するというべきであって、「就業に関して」行われるものという要件を満たすと解すべきである。