全 情 報

ID番号 07684
事件名 雇用関係存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 メレスグリオ事件
争点
事案概要  会社Yの従業員Xが、Yからの退職勧奨を拒否した後、東京都渋谷区の営業本部から埼玉県比企郡の本社・玉川工場への配転を命じられたため、通勤時間が従来の二倍になり、独身女性であることから居住している公団に老後も住み続けたいとして、右配転命令を拒否したところ、懲戒解雇されたことから、右配転命令は無効であり、懲戒解雇も解雇権濫用により無効であると主張して、営業本部において勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金支払・賞与支払を求めたケースの控訴審(X控訴)で、原審はいずれの請求も棄却していたが、本件配転命令は有効であるものの、生じる利害得失についてXが判断するのに必要な情報を提供することなくしてなされているから、かかる配転命令に従わなかったことを理由とする本件懲戒解雇は懲戒権の濫用であり無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(営業本部における労働契約上の地位確認請求については請求が棄却)及び賃金・賞与の支払請求につきXの控訴が認容されて、原審の判断が取消された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 2000年11月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ネ) 363 
裁判結果 一部認容、一部棄却、一部却下(上告)
出典 労働判例799号17頁
審級関係 一審/06899/東京地/平 9. 1.27/平成6年(ワ)13352号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 当裁判所も本件配転命令は有効であると判断する。その理由は、原判決の事実及び理由の「第三判断」の二に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 控訴人は、本件配転命令に従わず、平成5年4月1日以降、本社・玉川工場に出社しなかったもので、被控訴人の就業規則19条所定の業務上の指揮監督に従うべき義務に違反しており、その期間も同日以降14日までに及び、懲戒解雇事由を定めた就業規則54条7号所定の「その事案が重篤なとき」に該当する。
 2 しかしながら、本件懲戒解雇の効力は、左記のとおり、認めることができない。
 (一) 前記のとおり、被控訴人は、本件配転により控訴人の居住地から本社・玉川工場まで、通勤に約2時間と従前の約2倍を要することとなるにもかかわらず、通勤所要時間、方法等について内示前に確認しておらず、本件配転の内示を受け、控訴人が、通勤の困難を主張して配転を拒む姿勢を示していたのに対しても、本件配転を命じた事情、通勤所要時間、方法等について説明した形跡も見あたらず、高坂駅と本社・玉川工場間に従業員のために運行させている通勤バスについて説明したのも、本件配転の発令後の同年4月2日の代理人弁護士間の交渉の際が初めてである。右事情の下では、本件配転は、被控訴人が、内示後本件懲戒解雇に至るまでの間、本件配転を受け容れるかどうかを控訴人が判断するのに必要な情報を提供せず、前記バスの発車時刻の調整等による通勤時間の若干の短縮等の容易に採用しうる通勤緩和措置も検討しないまま、発令されたと評しうる。〔中略〕
 本件配転は、被控訴人側から見れば、いわば余剰となる人員についての配転であり、十分な説明をして必要性を理解させた上で配転に応じさせようとする意欲が乏しく、控訴人が応じないで退職を選択するのであればそれも構わないとの態度で臨んだのではないかと窺われないではなく、人員削減を図ろうとする使用者の立場からは、無理からぬ事情がある。しかしながら、配転命令自体は権利濫用と評されるものでない場合であっても、懲戒解雇に至るまでの経緯によっては、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は、なお、権利濫用としてその効力を否定されうると解すべきである。本件においてこれをみると、前記のとおり、本件配転命令は控訴人の職務内容に変更を生じるものでなく、通勤所要時間が約2倍となる等の不利益をもたらすものの、権利濫用と評すべきものでないが、被控訴人は、控訴人に対し、職務内容に変更を生じないことを説明したにとどまり、本件配転後の通勤所要時間、経路等、控訴人において本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように、生じる利害得失について控訴人が判断するのに必要な情報を提供することなくしてされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は、性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである。