全 情 報

ID番号 07694
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 サンケイ開発事件
争点
事案概要  ゴルフ場を経営する会社Xが、団体交渉においてX経営のゴルフ場に勤務するキャデイの賃上げ等に関する要求には応じることができないとの対応に終始したことから、労働組合Y1の組合員Y2らが、ゴルフ場の営業時間中に敷地内においてときには拡声器を使用した演説等の宣伝活動を数回行い、誠実な交渉等を訴える約五五枚の立て看板をゴルフ場付近に設置するなどしたところ、右組合員らによる宣伝活動における発言や立て看板・旗の設置はXの名誉及び信用を毀損する行為であるとして、Yらに対し、損害賠償(慰謝料)を請求したケースで、右宣伝活動等は、形式的にみればXの名誉、信用を毀損する行為に該当するということができるが、右宣伝活動のうち摘示した事実が真実でなく、また真実であると判断したことについて軽率な点があったとしても、その表現自体や態様、発言時間ないし回数、目的等からみてXの営業に及ぼす影響も少なく、これによるXの社会評価に対する影響も殆どない程度のものであり、またXの団体交渉等に対する誠実とはいえない対応をも考慮すれば、組合員らの行為は社会通念上からみても、未だ、正当な組合活動の範囲内の行為と認めることができ、また立て看板及び旗の設置についても同様であるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働組合法2条1項
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2000年12月18日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 14019 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1768号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 労働組合の宣伝活動の相当性については、労使間の緊張関係の深刻さや労使双方の団体交渉に対する対応等と無関係に判断することはできないものであるところ、前記認定のとおり、原告はA支部が結成されたころから、キャディの一時金支給等の要求に対し、一四回に及ぶ団体交渉においても、これを拒否するだけで、その納得しうる根拠を示さず、その後、キャディらが運輸一般に移って後の団体交渉を経ても、なお従前と変わらぬ態度をとり続けた。そのため、組合員らが本件宣伝活動等をするに至ったものである。そして、その間、平成八年二月の団体交渉においてBが交渉会場に乱入したり、同年八月には、組合員であるキャディに対する暴力事件も発生したことがあったし、右のような原告の団体交渉における対応については、これを誠実ということはできない。このような原告と組合員らとの長期間に及ぶ労使交渉の経緯、そして、これに対する原告の誠実といえない態度に照らせば、組合員らが原告に対する不信感を強め、対決色を濃くしたことは、あながち不当として責めることはできない。
 以上を総合すれば、前記宣伝活動は、摘示した事実が真実でなく、また、真実であると判断したことについて軽率な点があったとしても、九回の宣伝活動で行われた発言の中では、ごく僅かであり、その表現自体や表現の態様が、断定的なものでなく、または単なる口頭によるものであったり、宣伝活動中のわずかな時間ないし回数のものであるし、発言目的も、その内容から見て、殊更営業妨害や嫌がらせを目的にしたものとまではいえず、営業に及ぼす影響も少なく、これによる原告の社会評価に対する影響も殆どない程度のものであるから、右の原告の団体交渉等に対する誠実とはいえない対応をも考慮すれば、組合員らの行為は、社会通念上からみても、未だ、正当な組合活動の範囲内の行為と認めることができる。