全 情 報

ID番号 07703
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 鳥屋町職員事件
争点
事案概要  石川県鳥屋町Yの役場事務補助員として採用され、その後出向等を経て、下水道課主査として勤務していた女性Xが、Yでは行政職の職員について男性五八歳、女性四八歳の退職勧奨制度があり、上記年齢達する年度の末日の一三ヶ月前に当該職員に対して退職勧奨する旨の取扱いがなされていたところ、右取扱にしたがって、四八歳になることを理由に退職勧奨されたが、これに応じなかったため、助役から職務行為として町長室に呼出されて退職勧奨されたり、町長がXの近親者に対しXの退職勧奨の説得を依頼したりし、またYでは非違行為など特段の事情がない限り一年ごとに一号昇給する運用がなされていたにもかかわらず、Xが退職勧奨を拒否した以降、Xの昇給がなかったため、Yに対し、〔1〕YはXに特段の事情のない限りXを毎年一号昇給させる義務を負っていると主張してXが昇給していたはずの額と既払額との差額の支払の請求(予備的に差額給与相当額の国家賠償請求)、〔2〕本件退職勧奨制度は、地方公務員法一三条の平等取扱の原則に反するなどから違法であるとして、本件退職勧奨、昇給停止等により被った精神的苦痛に対する慰謝料請求したケースで、〔1〕について、Yの職員であるXは、任命権者の評価・判断なくして当然に昇給するものではないから、Xの差額給与の支払請求は理由がないとされたが、本件退職勧奨制度は、もっぱら女性であることのみを理由として差別的取扱いをするもので地方公務員一三条に反し違法なものであり、またその態様から本件退職勧奨自体も違法であることから、町長は違法な退職勧奨制度に基づく違法な退職勧奨に応じなかったことを主要な原因として、Xらに対し本件昇給停止という不利益な取扱いを行ったことは、違法な公権力の行為であり、また町長に少なくとも過失があったとして、国家賠償法一条に基づき差額給料相当額の損害賠償請求(予備的請求)が一部認容され、〔2〕についても、慰謝料請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
国家賠償法1条
体系項目 退職 / 退職勧奨
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 定期昇給
裁判年月日 2001年1月15日
裁判所名 金沢地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 114 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例805号82頁/労経速報1771号6頁/判例地方自治211号36頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-定期昇給〕
 被告での昇給は、本件給与条例に基づいて行われるものではあるが、原則として、職制上の地位の変動とは連動せず、著しい非違行為などの特段の事由のない限り、1年毎に1号給昇給する運用とされていたことは、前記判示のとおりである。
 しかしながら、地方公務員の給与について条例の定めが要求されている趣旨からすれば、本件給与条例において、前記判示のとおり規定されている以上、上記運用実態をもってしても、被告が特段の事由がない限り原告を毎年1号給昇給させる法的義務を負っていると解することはできない。〔中略〕
 被告においては、昇給は、原則として職制上の地位の変動とは連動せず、著しい非違行為などの特段の事由のない限り、1年毎に1号給昇給する運用とされていたことは、前記判示のとおりであり、また、前記のとおり、その例外とされた事例としては、分限処分を受けて降格し、給与が減額された2名の職員の例、上記分限処分の事由となった事実に関わりがあったため、自ら申し出た職員1名につき、平成9年の昇給が行われなかった例の他は、退職勧奨年齢に達しても退職しなかった職員の例があるのみであり、それ以外には、1年毎の1号給昇給を受け得なかった者はいなかったことが認められるのであって、これによれば、被告においては、分限処分に値するか、それと同等と評価し得るほどの著しい非違行為があるなどの特段の事情がない限り、その職員は、本件給与条例第4条第5項にいう「良好な成績で勤務した」と取り扱われてきたものと認めるのが相当である。〔中略〕
〔退職-退職勧奨〕
 被告における本件勧奨退職制度は、前記認定のとおり、行政職の男子と女子とで退職勧奨年齢を10歳も異にするものであって、その区別について合理的な理由があると認めるに足りる証拠はないから、右制度は、もっぱら女子であることのみを理由として差別的取扱いをするものであって、地方公務員法13条に反し違法なものであるといわなければならない。
 また、元来、退職勧奨は、その性質上、これを行うか否かは任命権者において自由に決し得るものであり、反面被用者は理由のいかんを問わず、その自由な意思において、勧奨を受けることを拒否し、あるいは勧奨による退職に応じないことができるはずのものである。したがって、任命権者の勧奨行為について、勧奨の回数等により形式的にその限界を画することはできないけれども、それは、職務上の上下関係の中でなされるものであるから、無限定になし得るものとすることはできないのであって、被勧奨者の自由な意思決定を妨げるような態様でこれを行うことは許されないものというべきであり、まして、退職勧奨のために出頭を命ずるなどの職務命令を発することは到底許されないものというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔退職-退職勧奨〕
 原告が退職勧奨に応じるか否かは、あくまで原告の自由な意思によるべきであるのに、原告の近親者の原告に対する影響力を期待して、原告が退職勧奨に応じるよう説得することを依頼することは退職勧奨方法として社会的相当性を逸脱する行為であり、違法であると評価せざるを得ない。
 そうすると、町長は、上記(三)の違法な本件退職勧奨制度に基づく上記(四)の違法な本件退職勧奨に原告が応じなかったことを主要な原因として、原告に対し、本件昇給停止という不利益な取扱いを行ったものであって、前記行為は、違法な公権力の行使といわなければならず、また、前記事実関係によれば、前記行為に当たり、町長に少なくとも過失があったことは明らかといわなければならない。
 したがって、被告は、原告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、原告が受けた損害を賠償すべき義務がある。