全 情 報

ID番号 07705
事件名 遺族補償費不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 新宿労基署長(映画撮影技師)事件
争点
事案概要  映画撮影技師(カメラマン)であったAがBプロダクションとの撮影業務(撮影期間約七ヶ月間うち延べ五〇日の予定)に従事する契約に基づき映画撮影に従事中に、宿泊していた旅館で脳梗塞を発症してその後死亡したことについて、その子であるXが、Aの死亡は業務に起因するものであるとして、新宿労基署長Yに対して遺族補償給付の請求をしたところ、Yは労基法9条にいう労働者には該当しないとの理由で不支給処分としたため、右処分の取消を請求したケースで、Aは自己の危険と計算で本件映画業務に従事していたと認められるのが相当であり、使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたとはいえないから、労基法9条にいう「労働者」に当たらないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法1条
労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 映画撮影技師
裁判年月日 2001年1月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行ウ) 186 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1749号165頁/労働判例802号10頁
審級関係
評釈論文 小畑史子・労働基準53巻12号22~26頁2001年12月/西村健一郎・月刊ろうさい53巻3号4~7頁2002年3月
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-映画撮影技師〕
 労災保険法の保険給付の対象となる労働者の意義については、同法にこれを定義した規定はないが、同法が労基法第8章「災害補償」に定める各規定の使用者の労災補償義務に関わる使用者全額負担の責任保険として制定されたものであることにかんがみると、労災保険法上の「労働者」は、労基法上の「労働者」と同一のものであると解するのが相当である。そして、労基法9条は、「労働者」とは、職業の種類を問わず、同法8条所定の「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいうと規定しているところ、これは要するに、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金の支払を受ける者をいうと解されるから、「労働者」に当たるか否かは、雇用、請負といった法形式のいかんにかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断すべきものである。
 もっとも、実際には種々様々な契約の形態があり、使用従属関係といってもその程度は一様ではないから、使用従属関係の有無は、使用者とされる者と労働者とされる者との間における具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、時間的及び場所的拘束性の有無・程度、労務提供の代替性の有無、支払われる報酬の性格・額、業務用機材等機械・器具の負担関係、専属性の程度、使用者の服務規律の適用の有無、公租などの公的負担関係、その他諸般の事情を総合的に考慮して判断されなければならない。〔中略〕
 右2で検討したところによれば、亡Aの本件映画撮影業務については、個々の仕事についての諾否の自由が制約されていること、時間的・場所的拘束性が高いこと、労務提供の代替性が低いこと、撮影機材はBプロのものであること、Bプロが亡Aの本件報酬を労災保険料の算定基礎としていることといった労働者性を窺わせる事情はあるが、これらのうち、個々の仕事の諾否の自由の制約や、時間的・場所的拘束性の高さは、使用従属関係の徴表とみるよりは映画の製作・撮影という仕事の性質ないし特殊性に伴う当然の制約であって、亡Aの撮影業務遂行上、同人には相当程度の裁量があり、使用者による指揮監督があったとは認め難いこと、亡Aの本件報酬は仕事の請負に対する報酬とみられるし、所得申告上も事業所得として申告され、Bプロも事業報酬である芸能人報酬として源泉徴収を行っていること、亡AのBプロへの専属性は低く、Bプロの就業規則も適用されていないこと等を総合して考えれば、亡Aは自己の危険と計算で本件映画の撮影業務に従事していたものと認めるのが相当であり、使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたとはいえないから、労基法9条にいう「労働者」に当たらないといわざるを得ない。