全 情 報

ID番号 07706
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 板橋商事事件
争点
事案概要  運送業等を営む株式会社Yに本社総務部付として管理職扱いの処遇で採用され営業所、本社勤務を経て六〇歳で定年退職した元従業員Xが、〔1〕年収を毎年五〇万円昇給させるとの約定があったにもかかわらず、在職中年収を据え置かれたと主張して、未払賃金(五〇〇万円)の支払を、〔2〕YがXを非管理職扱いにした組織表等を作成し、回覧文書の指名欄を下位の者と逆転させたこと、賃金支払を複数回にわたり意図的に遅延させたこと、X宛ての郵便物を隠匿、破棄する等の様々な嫌がらせを行ったことが不法行為に該当すると主張して、慰謝料(五〇〇万円)の支払を、〔3〕Xの退職後に支払われるべき賃金・賞与の一部の支払を怠ったとして、未払い賃金合計約二万円の支払を請求したケースで、〔1〕入社後社内で立派な人物であるとの評価が出れば、次年度以降昇給することもあり得るとの契約内容であることからすれば、何ら無条件に毎年五〇万円の昇給を行うとの合意がなかったことは明白であるとして、請求が棄却、〔2〕Y従業員又はYがXに対する違法な嫌がらせ行為を行ったとは認めることができず不法行為に基づく慰謝料等の請求には理由がないとして請求が棄却、〔3〕についても、就業規則の解釈及び賞与支給基準の適用につきY側の主張を採用し各支給額に不足はないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 2001年1月25日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 1785 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1773号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 これまでに認定した事実を総合すると、被告がAを通じて原告に提示した条件は、平成六年三月三一日ころに示した、入社時の年収を五五〇万円、入社後社内で立派な人物であるとの評価が出れば、次年度以降六〇〇万円を上限として昇給することもあり得るという内容であり、これをAが同日原告に伝え、原告が了承したという経過である。そうすると、原・被告間の雇用契約において、賃金に関しては、入社時の年収を五五〇万円とすることが約束されたにとどまり、人事考課による昇給の可能性は一般論を述べたものに過ぎず、契約の内容となっていないものというべきである。
 仮に、人事考課による昇給の可能性が原・被告間の雇用契約の内容となっているとしても、その内容は、原告の入社後、社内で立派な人物であるとの評価を得ることが昇給の条件であり、その場合の昇給額は、次年度は年収六〇〇万円を上限として(すなわち、昇給分とすると、年五〇万円を限度として)被告において決定するとの内容である。したがって、原告主張の次年度以降無条件に毎年五〇万円の昇給を行うとの合意がなかったことは明白である。そして、被告が原告のために人事考課を行い、昇給額を決定したことについては、主張も立証もない。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 被告においては、慣行上、非組合員に対しても、全港湾と被告との協定に基づき、定年退職者の賞与算定方式は、賞与支給期間内の就労日数を当該期間における所定労働日数で除した額に協定に基づく支給額を乗じて得た額を支給する方式(積上げ法式)を採っている。原告の場合、平成一〇年一一月二一日から退職日である平成一一年三月二五日までの間の就労日数が九〇日、賞与支給期間内の所定労働日数は一三一日であるから、協定による支給額三九万三〇〇〇円に九〇/一三一を乗じた金額が賞与支給額であり、二七万円となる。
 よって、被告の原告に対する平成一一年夏期賞与支給額に不足はない。