全 情 報

ID番号 07707
事件名 損害賠償請求各控訴及び附帯控訴事件
いわゆる事件名 全税関東京支部事件
争点
事案概要  〔1〕東京税関の職員であり全国税関労働組合東京支部X1の組合員であったX2ら一〇〇名が、昭和四〇年から昭和四九年までの間、東京税関長から、X1組合の組合員であることを理由として、昇任、昇格及び昇給等について不当な差別扱いを受け、これにより財産的、精神的損害を被ったとして、国家賠償法一条一項に基づき、右期間中に生じた右損害の賠償を請求し、また〔2〕組合X1が、その組合員に対する不当な差別扱いを受けたほか、東京税関局の違法な支配介入等により団結権を侵害され、これにより無形の損害を被ったとして、国家賠償法に基づき損害賠償を請求したケースの控訴審(予備的請求として慰謝料の支払を請求・国控訴・Xら附帯控訴)で、原審は〔1〕につきX2ら組合員のうち非組合員との間で給与格差が認められた五四名につき慰謝料請求を一部認容(一〇万から三〇万)、〔2〕についても組合X1の団結侵害に対する慰謝料請求が一部認容(慰謝料一〇〇万・弁護士費用一〇万円)を認容していたが、〔1〕について、X1組合員と非組合員との間に昇任、昇格、昇給につき格差がみられるが、X1らの非違行為、一ヶ月以上の病気休暇取得の事実等を考慮に入れれば、東京税関長によるX2らの処遇の決定につき裁量権の濫用を認めることができないとして、原審の判断が取消され、〔2〕については、認容額が二〇〇万円(弁護士費用五〇万円)に変更された事例。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 男女別コ-ス制・配置・昇格等差別
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
裁判年月日 2001年1月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ネ) 999 
平成7年 (ネ) 1050 
平成12年 (ネ) 5004 
裁判結果 一部棄却、一部原判決変更(上告)
出典 労働判例803号38頁
審級関係 上告審/07828/最高一小/平13.12.13/平成13年(受)902号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 非違行為の存在(現認書の成立、証拠能力を含む。)、非違行為の違法性、勤務成績の評定において非違行為を考慮することの可否に関する当裁判所の判断は、原判決書【1】「第四章 争点に対する判断」の第五(但し、原判決書【1】518頁8行目から同546頁5行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 個人一審原告らの勤務成績を評定するについて個人一審原告らの非違行為を考慮することができることは、前記第五に説示のとおりである。
 次に、個人一審原告らの病気休暇の取得については、本来病気となること自体は、やむを得ないことであるといい得るものの、病気休暇を取得したことは、当該本人をより上位の官職に昇任させるか否か、より高い等級に昇格させるか否かを判断するについて、能力、適性の一事情としてこれを斟酌し得るのであって、長期間にわたり病気休暇を取得したことをもって、勤務成績の評定上不利に扱われてもやむを得ないというべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 右認定の事実によれば、一審原告らの非違行為と一審原告らの昇任、昇格、特別昇給との間に関連性がないかの如くにみられないでもない。しかしながら、もともと、税関長による昇任、昇格すべき職員の選考は、定数枠の範囲内で、必要経験年数、必要在級年数を考慮し、選考の対象となる職員の学歴、資格、経歴、勤務成績、執務能力、適性等を総合勘案してされ、非違行為は、それが、ごく例外的に軽微なものであるか、又は日常の勤務成績が抜群に良いために障害とならない場合を除き、通常、職員についての昇任、昇格及び昇給を阻害する事由となるのであり、右のような例外的な場合でないにもかかわらず、非違行為のある職員を昇任、昇格又は昇給させる事実があるのであれば、そのような取扱いこそ是正されるべきであって、過去の取扱いが公務員制度の趣旨を没却するものであったからといって、後々も同様の取扱いを続けなければならないとはいえず、これについて裁量権の濫用の問題を生じることもない。一審原告らの主張は、採用することができない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
 1 一般に、女性労働者が男性労働者と同一の内容の職務に従事し、勤務成績、能力、適性においても男性労働者と差がないにもかかわらず、昇任、昇格及び昇給において女性労働者と男性労働者との間に当該労働者が女性であることのみを理由とする格差を生じたときは、合理的期間内に右格差が是正されない限り、使用者に、少なくとも過失に基づく損害賠償義務が生じる余地がある。しかしながら、国家公務員については、前記第二(原判決書【1】「第四章争点に対する判断」の第二)に説示のとおり、その昇任、昇格及び昇給の選考は、任命権者の裁量に任されており、昇任、昇格及び昇給における男女間差別を理由として一審被告が国賠法1条1項に基づく損害賠償義務を負うのは、東京税関長がその有する右裁量権を逸脱、濫用した場合に限られる。
 2 女性一審原告らのうち、一審原告X2は、原告別非違行為等一覧表と証拠(〈証拠略〉)によれば、昭和26年1月に入関し、昭和32年の俸給表改正により行政職(二)となり、入関以後東京税関の電話交換手として勤務した者であることが認められる。しかしながら、本件全証拠によっても、同一審原告と比較するのを相当とする同一審原告と同一職種の同期同資格男性入関者を認めることはできず(自動車運転手(男性)とは、職務の内容が異なるので、これと比較するのは相当でない。)、同一審原告について、男女間格差を認めることはできない。