全 情 報

ID番号 07718
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 岩手第一事件
争点
事案概要  自動車学校の経営を目的とする会社Yで指導員として勤務するXら六名が、Yの就業規則では、一ヵ月平均の労働時間を週四〇時間とする一ヵ月単位の変形労働時間制を採用する旨の規定が設けられており、一日の所定労働時間が七時間一〇分とされていたが、所定の休日以外の労働日の労働時間数をすべて上記の所定労働時間の通りにすれば一ヶ月平均の週労働時間が四〇時間を超える月が生じることから、一ヶ月平均週四〇時間を超えないように、〔1〕所定週休日以外にも休日を指定する、〔2〕各変形期間内の特定の日における労働時間を短縮する、〔3〕季節又は業務の都合により一定期間内の特定の日又は週について労働時間を延長・短縮する旨を定めた規定に基づき、勤務割表で変形期間開始前の三日ないし五日前に基本的な就業形態とは異なる日及び勤務時間、休日等が提示されていたことから、当該変形労働時間制度を定めた就業規則は労基法三二条の二に違反して無効であることの確認を請求したケースで、本件就業規則の各規定は、一ヶ月単位の変形労働時間制を採用することを明記し、基本となる始業時刻、就業時刻及び休憩時間を定めているものの、法定労働時間を達成するために労働時間を短縮する日及びその労働時間等について何らの定めがなく、Yが任意に決定及び変更できる内容となっていることから、労働者が予め法定労働時間を超える日及び週がいつとなるのか、またその日、週に何時間の労働をすることになるのかについて予測が不可能であり、労基法三二条の二が要求する「特定」の要件に欠ける違法、無効なものであるとして請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法32条の2
体系項目 労働時間(民事) / 変形労働時間 / 一カ月以内の変形労働時間
裁判年月日 2001年2月16日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 158 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例810号15頁/労経速報1765号23頁
審級関係 控訴審/07799/仙台高/平13. 8.29/平成13年(ネ)125号
評釈論文 ・労政時報3491号74~75頁2001年5月18日
判決理由 〔労働時間-変形労働時間-一カ月以内の変形労働時間〕
 労働基準法32条の2第1項が、「その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。」旨規定しているところに鑑みれば、同条の定める1ヶ月単位の変形労働時間制においては、使用者が日又は週において法定労働時間を超えて労働させることが可能になるため、労働時間の過密な集中を招くおそれがあり、労働者の生活に与える影響が通常の労働時間制の場合に比して大きくなることから、この不利益を最小限にとどめるため、同条のいう「その定めにより」、法定労働時間を超える日及び週がいつであるのか、その日、週に何時間の労働をさせるのかについて、これらをできる限り具体的に特定することが求められているものというべきである〔中略〕
 労働基準法32条の2第1項の上記した趣旨及び前記認定にかかる各通達に照らせば、使用者が1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する場合には、就業規則等において、変形期間内における毎労働日の労働時間を特定するか、あるいはこれを特定しないときには、労働者が、予め法定労働時間を超える日及び週がいつとなるのか、またその日、週に何時間の労働をすることになるのかについて、ある程度予測することができるようにするため、少なくとも就業規則上、始業時刻、終業時刻を異にするいくつかの労働パターンを設定し、勤務割がその組合せのみによって決まるようにし、またその組合せの法則、勤務割表の作成手続や周知方法等を定めておくことが求められているものというべきであって、法定労働時間を超える日及び週をいつとするのか、またその日、週に何時間の労働をさせるのかについて、使用者が全く無制限に決定できるような内容となっている就業規則の定めは、同条が求める「特定された週」又は「特定された日」の要件に欠ける違法、無効なものであるというべきである。
 また、いったん特定された労働時間の変更に関する条項(以下「変更条項」という。)についても、労働基準法32条の2第1項が就業規則によって労働時間の特定を要求している趣旨が上記のとおりであることを考慮すれば、同変更条項は、労働者からみてどのような場合に変更が行われるのかを予測することが可能な程度に変更事由を具体的に定めることを要するものというべきである。〔中略〕
 本件就業規則は、19条1項が1ヶ月単位の変形労働時間制を採用することを明記し、同条2項が基本となる始業時刻、終業時刻及び休憩時間を定めてはいるものの、法定労働時間を達成するため、同条4項により、被告が、各変形期間の特定の日については、1日の労働時間を短縮するものとし、また、24条1項(6)により、同項(1)から(5)に掲げる以外に休日を指定する仕組みとなっており、19条4項により、労働時間を短縮する日をいつとするのか、その労働時間を何時間とするのかについて、同就業規則上何らの定めがなく、被告が任意に決めることができる内容となっている。
 また、本件就業規則20条1項は、同19条の始業・終業の時刻及び休憩の時間について、季節、または業務の都合により変更し、一定期間内の特定の日あるいは特定の週について労働時間を延長し、もしくは短縮することがあるとして、被告が任意に労働時間を変更することができる内容となっており、労働者が同規定のみからどのような場合に変更が行われるのかを予測することは到底不可能であることが明らかである。
 そうすると、これら各規定は、労働基準法32条の2第1項に定める1ヶ月単位の変形労働時間制の制度の趣旨に合致せず、同条が定める「特定された週」又は「特定された日」の要件に欠ける違法、無効なものというべきである。
 そして、本件就業規則19条4項は、前記(1)のとおり、同条2項の勤務時間の定めと同24条の休日の定めを前提としたものであるから、結局同就業規則の勤務時間、勤務時間の変更及び休日に関する本件各規定は一体のものとして無効であると解するのが相当である。