全 情 報

ID番号 07724
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 日興エンジニアリング事件
争点
事案概要  理化学工業機械の開発等を目的とする株式会社A社に入社後、A社と株式会社B社の合併により設立された株式会社Cグループの取締役であったXらは、合併後のCグループの営業改善策として新たに営業が開始されることになった株式会社Y(Cグループの代表取締役D等が株式を保有していた、翻訳等の請負を目的とする会社Eが休眠会社となっていたことから、その商号をYに変更し、目的を理化学工業の開発等に変更した。その後、Yの全株式はDからY代表取締役Fに譲渡された)の取締役も兼任するようになったが、Cグループはすでに事実上倒産したため、XがYに対し、YとCグループは法的同一性を有していたと主張して、Cグループの退職金規程に基づき全勤続年数を算定の基礎にして計算した退職金の支払(Cグループの取締役であった期間についても従業員兼取締役であったとして算定の基礎に算入)を請求したケースで、Yは営業を開始後も顧客から受注した契約をその代金額の九割の金額でCグループに下請けさせていたことなどからして、実質的にはCグループの一部門が独立したものであるということはできるが、そのことはYがCグループと法的同一性を有することを意味するものでなく、両会社の業務は実質的には異なるとして、Cグループの従業員であったXらがYに対し、退職金の支払を請求することはできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 2001年2月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 5969 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1763号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 被告が設立(法形式的には、Fが商号及び目的を変更したものである)されたのは、旧A社の顧客から、多額の債務を抱える株式会社B社と合併したCグループとの契約の打ち切りを通告されたことがきっかけであること(前記1(1))からすると、結果としてCグループが倒産するに至ったとしても、偽装倒産ということはできない。この点、D弁護士も、被告の設立には業務上の必要があったとしている(前記1(3))。このような被告設立のきっかけや、被告設立後、Cグループに対し、下請をさせる形式で、売上の九割を得させていただけでなく、それ以上の送金をしていたことなどからすると、むしろ、B社との合併によってCグループが債務超過に陥り、信用不安から旧A社の顧客との取引継続が困難になったことから、Cグループは、いわば、その生き残りをかけて、Cグループから、理化学工業機械の開発、製造販売部門(旧A社ということもできる)を再度独立させて、被告が利益を上げて、Cグループへ援助し(特に、被告は、Cグループに対し、同社が事実上倒産する前三か月間で合計二六〇〇万円も送金している)、両会社の継続を図ろうとしたものと推認することができるのであって、直ちにCグループが偽装倒産したものであるということはできない。
 (3) こうしたことからすると、被告は、実質的には、Cグループの中の一部門が独立したものであるということはできるが、そのことは、被告がCグループと法的同一性を有することを意味するものでないことは明らかである。
 すなわち、Cグループは、被告の設立によっても目的を変更せず、下請という形式で理化学工業機械の製造販売を引き続き行っていたものの、実質的にはこの部分の業務を被告が行い、Cグループには不動産取引業務が残るだけになったのであり、両会社の業務は実質的に異なることになり、経理上の処理でも両者は区別され(原告X)、被告の全株式がEからYに譲渡された後は、役員構成も異なるに至ったことからすれば(前記1(1))、被告は、その設立によって、名実ともにCグループとは別会社になったというべきである。そして、旧A社や被告の営業がYの開発した技術によっていたこと(前記1(1))から、Cグループとしては、Yが抜ければ、旧A社の業務を継続していくことが困難であったものと推認することができることからしても、被告の設立は、文字通り、Cグループと被告が別会社であることを意味するものであることが裏付けられる。
 したがって、被告とCグループとの法的同一性を認めることはできないから、Cグループの従業員であった原告らが被告に対し、退職金の支払を求めることはできないものといわざるをえない。