全 情 報

ID番号 07732
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 西日本旅客鉄道事件
争点
事案概要  車両及び各種電気機器具の製造・販売等を業とする株式会社Aの従業員であるXは、Aと株式会社Yとの請負契約に基づき、Yの工場内に設置された出張所で電車車両の誘導業務に従事してきたが、Yが右請負契約を更新せず期間満了により終了させたことに伴い、Aから解雇されたことから、XがYに対し、〔1〕本件業務は、AとY間の請負契約の目的という形をとるものの、実質的にはYは本件業務につき指揮命令する地位あったことなどから、XとYとの間には雇用契約が成立していたと主張し、またYはAの法人格を濫用した等と主張して、主位的に雇用契約に基づく権利を有することの確認及び賃金支払を請求するとともに、予備的に、仮にXY間との間に労働契約の成立が認められないとしても右請負契約の更新拒絶は許されないなどとして不法行為に基づく損害賠償を請求したケースで、Xが本件業務に従事するについて、Yと雇用契約を締結する意思をもっていたとはいえず、またYがXと雇用契約を締結する意思を有していたと認める証拠もないところ、Yが本件業務に関して指揮監督を行っていたことは否定できないが、Xの賃金の決定については全くAが決定していたことなどから、XY間に雇用契約が成立する余地もなく、また法人格濫用の事実も認められないとして、主位的請求が棄却されるとともに、予備的請求についても棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条1項
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 成立
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 2001年3月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 1444 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1766号10頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 A社は、本件業務を担当する以前から電車部品の修理等を請け負っていた独立した企業であり、資本においても、役員についても、被告とは全く独立した企業であること、原告は、平成二年一二月ころ、A社の従業員募集広告を見て、同社に応募し、同社において面接の上、採用されたこと、原告は面接の際、A社の担当者に電車誘導係の勤務を希望し、その後、同係に欠員が生じたことから、平成三年二月に、被告が実施した運転適性検査及び医学適性検査を受験し、合格して、同年三月から被告の吹田工場における本件業務担当に配転されて、同工場において勤務するようになったこと、原告に対する賃金は、A社の賃金規定に基づき、同社が原告の勤務状態を把握し、計算して支払っていたことを認めることができる。
 右事実に鑑みるに、原告が本件業務に従事するについて、被告と雇用契約を締結する意思をもっていたとはいえないし、また、被告が原告と雇用契約を締結する意思を有していたと認める証拠もないから、原告と被告との間に雇用契約が締結されたと認めることはできない。
 原告は、本件請負契約の実質が被告に対する労働者の供給契約ないし派遣契約であるというが、そうであるとしても、これが原告と被告との間の雇用契約を成立させる理由となるものではない。
 また、原告は、原告と被告との間に、指揮監督関係があり、原告の賃金を実質的に被告が決定しているから雇用契約が成立していると主張するところ、本件業務が被告において行う電車の点検修理のための準備作業という性質を有するものであって、その作業は被告における作業計画に合わせる必要があること等からすれば、本件業務に関して被告が指揮監督を行っていたことは否定できないが、そのような指揮監督関係があるからといって、原告のA社に対する労務提供という関係が否定されるものではないし、原告の具体的な賃金の決定については全くA社において決定されていたものであるうえ、雇用契約の意思表示の相手方については、前述のように、原告としてもA社と雇用契約を締結する意思であり、二重に契約する意図があったと窺える事情はないし、被告に原告を雇用する意思があったとは認められないから、契約が成立する余地はなく、原告の右主張は採り得ない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 原告は、被告がA社の被告に対する職業安定法四四条に違反した労働者供給を隠蔽する目的でA社の法人格を濫用している旨主張する。
 しかしながら、前述のとおり、A社は各種電機機械器具の製造、修理、販売等を目的とする被告とは独立した人格を有する実態のある企業であって、原告はA社と雇用契約を締結していた者で、原告に対する雇用契約上の責任はA社が負担するものであることからすれば、仮に被告が職業安定法四四条に違反した労働者供給を受けてきたとしても、それは同法違反というだけであって、未だこれを公序良俗違反とまでいう事情はなく、A社の法人格を否認して、原告を被告の従業員とみなさなければならない理由はない。
 また、原告は、被告が平成一〇年五月一六日の組合結成を嫌悪し、組合員を企業外に放逐するという不当労働行為目的のために、A社の法人格を濫用した旨主張するが、本件請負契約は右組合結成の前から行われていたものであるし、被告に不当労働行為目的があったとしても、それが原告を被告の従業員と扱わなければならない理由となるものではない。