全 情 報

ID番号 07740
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 中外爐工業事件
争点
事案概要  総合エンジニアリング会社Yで貼付機の開発にプロジェクトマネージャーとして従事していたXが、Y推進の転進援助制度の利用を申出て退職届を提出し、これが受理されるとともに、Yを退職するにあたり、技術上及び営業上の情報は一切持ち出していない旨が記載された誓約書を提出してYとの間で右誓約を交わしていたが、それにもかかわらず、退職間近に大量で多種にわたる技術資料等を自宅に配送したため、右技術資料等配送が就業規則の懲戒解雇事由(業務上の機密を社外に漏らしたとき、社品を無断で持出し又はみだりに私用に供したとき等)に該当するとして、Yより懲戒解雇されて退職金が不支給とされたことから、右懲戒解雇は不当であるとして、Yに対し、退職金の支払を請求するとともに、懲戒解雇の撤回を示しXへ謝罪を記載した謝罪通知の掲載を請求したケースで、右技術資料等の持出しはYに対する背信的な意図に基づくものであったと認められるし、持出した資料等には外部への流出によってYが重大な損害等を被りかねない重要なものが多数含まれていたうえ、返還等の状況等に照らすと、返還までの間にすでに複写等によって外部に流出していないか等の大いなる疑問があるとし、右資料等の持出は、未だ外部に流出するに至ってなかったとしても、XY間の信頼関係を根底から破壊するものであり、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当し、本件解雇には相当な懲戒解雇事由が存することが認められ、それ以外で本件解雇が解雇権濫用にあたるということもできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
労働基準法89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 2001年3月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 2408 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1768号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕
 右認定のとおり、原告は本件誓約書とともに退職届を提出し、退職が間近に予想された時期になって極めて大量で多種にわたる被告の技術資料や整理の必要があるとは思われないフロッピーディスクなどまで自宅に送っていること、その中には、わざわざ複写までした大量かつ詳細な設計図面一式が含まれていたこと、Aの事情聴取に対し当初は事実を否定していたこと、Aらが返還を受けるため原告の自宅まで同行するというのにもこれを嫌がり、結局、同行に同意はしたものの、Aらを玄関前に待たせ脅迫的言辞を弄し、施錠までして頑に入室を拒絶したこと、その後の事情聴取において、あらかじめ書面で準備していたにもかかわらず持出意図などについては曖昧な弁解しかできなかったことなどが認められるのであって、これらを総合するときは、原告が主張するような整理のための一時的な持出であったなどとは到底考えられない。〔中略〕
 原告は、平成一二年一月七日、原告方への入室を拒否したこと等に関して、家が狭く、散らかっている室内を見られなくなったからなどと主張しているが、事態は、直前に無断持出の疑惑をかけられて事実確認の事情聴取を受け、出勤停止処分の告知まで受けるほど緊迫しているという状況であったし、Bが同行してきたということを理由とする点についても、後述のとおり何ら根拠のあることとは考えられず、右のような原告の主張は、およそ合理的な弁解としては受け入れがたいものであって到底採用できるものではない。
 以上のとおり、持出の目的に関する原告の主張等はいずれも採用できるものではなく、原告は、被告には知られたくない理由によって資料等の持出をしたものというほかなく、自己又は第三者の利益を図り、あるいは被告に損害を加えるためであったという背信的意図が推認できる。〔中略〕
 原告は、退職までの一切の情報等の持出をしないことを直近に誓約していたにもかかわらず、大量の技術資料等の持出をしており、これは被告に対する背信的な意図に基づくものであったと認められるし、持ち出した資料等には外部への流出によって被告が重大な損害等を被りかねない重要なものが多数含まれていたうえ、返還時の状況等に照らすと果たして持出資料のすべてが返還されたか、返還までの間にすでに複写等によって外部に流出していないか等の大いなる疑惑がある。
 右のような、資料等持出は、未だ外部に流出するには至っていなかったとしても、原被告間の信頼関係を根底から破壊するものでもあって、懲戒解雇事由を定めた就業規則七一条六号の「社品を無断で持ち出し」た場合に該当するとともに、二号の「業務上の機密を社外に漏らしたとき」に準ずる行為をしたとき(一二号)に該当するものというべきである。
 以上によれば、本件解雇には相当な懲戒解雇事由があると認められる。〔中略〕
 以上によれば、本件解雇が上司Bらの画策の結果であり解雇権の濫用であるという原告の右主張は採用できない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 原告は、本件の最終口頭弁論期日において、本件解雇が行政官庁の認定を受けることを定めた就業規則六七条四号に違反するもので無効であるとの主張を付加するに至ったが、右就業規則の規定が行政官庁の認定を要する旨定めた趣旨は、被告が懲戒解雇を即時解雇として規定したことから、労働基準法二〇条三項の要請を満たすためのものであったことは明らかである。そして、労働基準法二〇条三項の行政官庁の認定は解雇予告除外事由の存否を確認する処分であり、解雇の効力の発生要件であるとは解されないから、被告の右就業規則の趣旨も、これを懲戒解雇手続きに不可欠の自己拘束規定としたものとは考えられない。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 被告の給与規定では、懲戒解雇者には退職慰労金を支給しないこととされており、かかる規定の適用は、労働者にそれまでの勤続の功を抹消するほど著しい非違行為があった場合に限られるというべきであるが、原告の前記資料等持出しという懲戒解雇事由該当行為は、その内容、性質から考えて、まさにそれまでの勤続の功を抹消してしまうほど著しく背信的な行為というほかなく、右退職慰労金不支給事由に該当するというべきである。退職転身援助制度の特別加算金についても、それが退職給付の一部としての性質を有することは明らかであるし、転身援助制度規定でも懲戒解雇事由による退職の場合には、適用されないことが明記されており、このことは被告がいったん適用を承諾した後に懲戒解雇事由が生じた場合でも当然に当てはまるものと解され(その限りで、承諾は解除条件付のものということができる)、原告には転身援助制度上の優遇措置の適用はないというべきである。