全 情 報

ID番号 07749
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 塚本庄太郎商店事件
争点
事案概要  大阪市中央卸売市場内にある青果物仲買等を目的とする株式会社Y(個人商店から法人化・取締役を創業者一族で占める小規模閉鎖会社)では、九名の正社員、三名のパートタイマーのほか、アルバイトが勤務していたが、不況による人件費削減を理由に三名の自主退職者を募集後、自主退職者がいないときには三名を指名解雇する旨を労働組合に告知し、その後団体交渉が四回開催されたが、希望退職者の応募が期限を過ぎても出なかったため、労働組合の執行委員長X1及び副執行委員長X2ら二名及び非組合員一名を、就業規則(やむを得ない事業上の都合によるとき)に基づき解雇したため、XらがYに対し、右整理解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位保全及び賃金の仮払いを申立てたケースで、本件整理解雇につき、現時点での資金繰りの悪化を回避する必要があることは認められるが、真に人員整理をする必要性があるのかについては、その程度は高度なものであるとはいうことができず、またAが整理解雇回避努力を尽くしたとも認められず、手続きの点でも妥当なものとはいえないことから、本件解雇は整理解雇として効力を有せず無効であるとして、賃金の仮払の申立てのみが一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2001年4月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10003 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例813号56頁/労経速報1789号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するところ、整理解雇が有効と認められるためには、第1に、人員整理の必要性が存在すること、第2に人員整理の手段として解雇を選択する必要性が存すること(使用者が、解雇回避のための努力をしたこと)、第3に、被解雇者の選定が合理的であること、第4に解雇の手続きが妥当であること、が必要であり、整理解雇が有効か否かはこれらの要件該当性の有無、程度を総合的に考慮して判断されるべきである。
 使用者の裁量権を逸脱した解雇が解雇権の濫用として無効となることは当然であり(民法1条3項)、上記4要件(ただし、厳密な意味での要件ではなく、要素と解すべきである。)は、使用者の経営上の理由に基づいて行われる整理解雇において、使用者による恣意的な解雇がなされるのを防ぐために、考慮すべき要素を類型化したものであるから、整理解雇が客観的に合理的な理由を有するものであるか否かは、基本的には、これらの要件に則し、かつ、最終的にはこれら要件該当性の有無、程度を総合して判断するのが相当である。
 さらに、上記要件を本件にも適用すべき基盤は存在しており、これを否定すべき事情は見当たらない。すなわち、個人商店が法人化した場合も、特段の事情のない限り雇用関係は承継されるのが通常であるし、債務者の法人化に際しても、それまでの雇用関係を解消するための措置が採られたとの事情は窺われないし、功労金を支払ったことをもってそれまでの雇用関係が解消されたとは評価できないうえ、債務者は創業以来75年となる企業であり、債権者らと同時に解雇された者は、定年を超えて勤務してきた者であることに照らせば、正社員が定年までの長期雇用を期待するのがむしろ自然であり、上記4要件を要求するだけの基盤は存在するというべきである。
 したがって、本件においても、上記の要件を総合的に判断することによって、本件解雇の有効性を検討するのが相当である。〔中略〕
 人員整理の必要性については、企業の破綻が必至となることまでは要求するのは妥当ではなく、現状を維持していたのでは、将来的に収支が悪化することが確実であると認識しうる事情が認められれば、基本的にはこれを肯定すべきである。
 しかし、前述のとおり、整理解雇の4要件は、整理解雇が権利の濫用に当たり無効とすべきか否かを判断するための要素を類型化したものであるから、最終的な判断に当たっては、整理解雇の必要性の程度に応じて、解雇回避努力の程度等も異なるものと解するのが相当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 以上によれば、債務者が現時点での資金繰りの悪化を回避する必要があることは認められるが、真に人員整理をする必要性があるのかについては、疑問が残るといわざるを得ず、その程度は高度なものであるということはできない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 一般に、いかなる措置を行えば解雇回避努力を尽くしたといえるかについては、企業の経営状況や社会情勢等諸般の具体的事情の下で、経営者が整理解雇を回避するために相当な経営上の努力ないし合理的な経営上の努力を尽くしたかどうかにより総合的に判断すべきである。
 そして、本件では、短期的な資金繰りの悪化は認められるものの、人員整理の必要性に関する債務者の主張には疑問が残ることによれば、あらゆる解雇回避努力を尽くすことまでは必要ではないとはいえ、相当かつ合理的な、実現可能な解雇回避策を実施することが必要であるというべきである。
 本件において、債務者が本件解雇に先立って行った解雇回避のための方策は、希望退職の募集及び役員手当のカットである。
 役員手当のカットは希望退職募集の後、さらに組合が平成12年9月28日付け通知書で、断固希望退職には応じない旨の回答した後に、即ち組合員が希望退職の募集に応じない見込みであることが明らかになった後、同年10月20日付けの書面で、組合に対して債務者から申入れた団体交渉に出席しない場合には、数名の社員を解雇する旨通告された後になされているのである。すなわち、債務者における役員手当のカットは、ほぼ解雇を実施せざるを得ないことが明らかになった時点で初めて行われたのであり、役員手当のカットによる経費削減効果が経営状況に働き得る前時点で解雇を実施したことになるのであるから、これを債務者が尽くした解雇回避努力として重視することはできない。
 他方、債務者の役員らの経費の冗費や、高額な役員報酬が支給されているといった債権者らが種々主張する事実については、債務者において具体的な事実に基づく反論もされておらず、これに対する疎明もなされていない。(証拠略)によれば、債務者において役員に関する費用については一層削減の余地はあったものと推察されるところであるが、債務者が費用削減努力をしたとの事実は認められない。〔中略〕
 以上によれば、本件においては、実現可能である、相当かつ合理的な解雇回避策があったにもかかわらず、債務者はそれらの措置を実施していないといわざるを得ない。
 無論、具体的になし得る解雇回避策は外にもあり得るのであるが、少なくとも解雇通知前に具体的に実施された解雇回避策が希望退職にとどまると評価せざるを得ない本件においては、債務者が解雇回避努力を尽くしたとは認められない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 整理解雇にあたって、使用者は、人員整理の必要性と内容(時期、規模、方法等)について、労働組合又は労働者に対して説明をなし、十分な協議を経て納得を得るよう努力すべき義務がある。
 本件解雇に至るまでの経緯は、争いのない事実及び基本的事実関係に記載したとおりであり、債務者が、債権者ら組合員に対して示した資料は、平成11年度の決算報告書(〈証拠略〉)のみであり、その細目については全く明らかにせず、組合の質問に対しても、真摯に回答していなかった(〈証拠略〉)。
 以上によれば、債務者が、組合との間で、十分に協議したとは認められず、手続の点においても、妥当なものではなかったといわざるを得ない。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上によれば、債務者によってなされた本件解雇は、整理解雇として効力を有するとは評価できず、債権者らに対する本件解雇は無効である。