全 情 報

ID番号 07753
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 関西警備保障事件
争点
事案概要  一ヶ月単位の変形労働時間制を採用している警備会社Yの警備職員として、全日警備勤務に隔日二四時間勤務で従事していたXが、予定されていた休憩時間(仮眠時間も含む)は実質的には労働時間であったと主張して、時間外・深夜割増賃金の支払を請求したケースで、Yの勤務表では休憩時間の定めがあるものの、一人勤務という勤務形態から警備員が警備室を離れることは事実上できないものとなっており、警備員室という持ち場を離れることができず、休憩時間中に訪問者があればその対応をすることとなっている以上、労働から完全に解放された時間とはいえず休憩時間とはいえず、また仮眠時間帯についても、現実にはその途中に巡回があり、他の従業員の退社時間との関係で一定時間まで仮眠をとることができないこと、外部からの電話は仮眠室に繋がり、警報が発報すれば、事故の確認その他の指示を受けることとなっていたことなどから、この時間帯も労働からの完全に解放された時間とはいえないとしたうえで、結論として、昼食・夕食時間など自己のために費消した時間以外の時間は労働時間であるとして、時間外労働及び深夜労働に当たる時間につき請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法34条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の定義
裁判年月日 2001年4月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 4598 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1774号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休憩-「休憩時間」の付与-休憩時間の定義〕
 被告の勤務表では休憩時間の定めがあるけれども、一人勤務という勤務形態から警備員が警備員室を離れることは事実上できないものとなっていることが認められる。被告は、休憩が可能なように主張するが、昼食時間中であっても、警備委託先の従業員が交替することとなっていることからみて、立哨や巡回などのときを除いて警備員が警備員室を離れることは予定されていないというべきである。労働基準法上の休憩といえるためには、労働から完全に解放された時間であることを要するから、警備員室という持ち場を離れることができず、休憩時間中に訪問者があればその応対をすることとなっている以上これを休憩時間ということはできない。
 次に、被告の勤務表では、午前〇時から午前四時までの四時間が休憩時間となっているが、現実には、午前一時に巡回があり、二勤の従業員の退社時間の関係で午前二時ころまでは仮眠をとることはできない状況にあり、また、仮眠時間においても、外部からの電話は仮眠室に繋がっていること、機械警備等の警報が発報した場合には、事故の確認その他の指示を受けることとなっていること、残業した従業員の退出を管理する業務があることからすると、この時間帯も労働から完全に解放された時間ということはできない。
 以上によれば、被告において、休憩時間ということができるのは、昼食時間、夕食時間など現実に自己のために費消した時間だけというべきであって、その時間は一勤務において一時間程度といわざるを得ない。そうであれば、原告は一就労日について三時間の深夜を除く時間外労働と、四時間の深夜労働を行ったものというべきである。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 時間外賃金の単価については、日によって定められた賃金は、その金額を所定労働時間数で除したものであるから、原告については、一万二六二〇円を一六で除して得た七八八円(一円未満切り下げ)となる。
 被告は、賃金は、時間外及び深夜勤務手当を含めて一日あたり一万二六二〇円であった旨主張するところ、被告の就業規則二四条五項は、「日給制の特別臨時社員、臨時社員の賃金については、各勤務場所の各勤務表に応じ、また業務ならびに職種に応じて日額とし、時間外労働手当及び深夜労働手当を含めて各人ごとに定める」と規定していることが認められる。しかし、被告が定める勤務時間割(別紙二)は、午前九時から翌朝の午前九時までのうち、実労働を一六時間、休憩時間を八時間と定めているのであって、一日あたり一万二六二〇円の賃金は、右一六時間の労働に対する賃金というべきであり、右一六時間に加えて時間外労働を行ってもこれに対する賃金を支払わないことが労働基準法上許されるはずもない。
 そこで、被告は、原告に対し、一就労日について、三時間の深夜を除く時間外労働については一時間あたり九八五円の割増賃金と、四時間の深夜労働については一時間あたり一一八二円の割増賃金を支払う義務があり、その額は、一就労日について合計七六八三円となる(九八五×三+一一八二×四)。そして、原告の全就労日は二七一日であるから、右就労に対する未払割増賃金額は二〇八万二〇九三円となる。
 また、所定内労働時間についても週四〇時間を超えるものは、時間外労働というべきであるから、これに割増賃金を支払うべきは当然である。労働基準法の制限を超える就労時間を定めて、その賃金が時間外割増賃金を含むものと就業規則に規定したり、また、労働者と同意しても、それは労働基準法を潜脱するものであって許されず、効力を認めることはできない。そこで、週四〇時間を超える労働時間について、一時間あたり一九七円の支払義務があり、その額は、別紙一のG欄記載のとおり、二四万八八一一円となる。