全 情 報

ID番号 07756
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 鳥井電器事件
争点
事案概要  平成三年に電気配線器具製品製造等の業とする株式会社Yとの間で、就労できる在留資格の取得を条件として、翻訳及び海外・貿易業務等を職務内容とする期間の定めのない雇用契約(本件雇用契約)を締結したバングラデシュ国籍を有する労働者Xは、右契約と同時に在留資格の変更を受けるまではYの山梨県にある工場において時給計算のアルバイトとして配線器具の組立作業に従事する内容の雇用契約を締結し、組立作業に従事していたが、在留資格変更後も、本件雇用契約における合意内容と異なる組立作業を担当させられ、その後、平成六年に就労場所を本社とする旨の合意が成立して東京の本社工場のプレス部門で作業に従事していたが、同プレス部門を山梨県の新工場に集約することに伴ってなされた配転命令を拒否したことを理由に解雇されたことから、〔1〕XがYに対し、不当な処遇により本来支給されるべき適正な給与等を受領できなかったことにつき債務不履行又は不法行為に基づき、またYの取締役Y1に対しYとの共同不法行為に基づき、損害賠償を請求し、〔2〕Yに対し、右解雇は無効であると主張して、解雇無効の確認及び未払賃金等の支払を請求した(予備的に損害賠償請求)ケースで、〔1〕については本件雇用契約の締結当初は、Xを単純作業に従事させることを予定していたわけではなく、XがYで勤務する間に、日本語能力に不足していることが判明したため、当初予定していた職務の担当ができなくなったことからすれば、YがXに対し継続して組立作業等を担当させたことが債務不履行及び不法行為に該当できないとして、請求が棄却され、〔2〕についても、本件雇用契約締結当初も平成六年の合意においてもXの勤務地を本社に限定する合意はなされた事実を認めるに足りる証拠はないとしたうえで、本件配転命令は業務上の必要性があり、かつXに著しい不利益を負わせるような事情も認められず有効なものであり、これを拒否したXに対する解雇も有効として、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容
退職 / 退職勧奨
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 2001年5月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 11859 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例806号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕
 原告は、本件雇用契約における原告の職務内容は、コンピューター関係業務とする合意がされていたのに、被告会社は原告にプラスチック製品組立作業等の単純作業のみをさせた債務不履行又は不法行為が存在すると主張する。
 これに対し、被告会社は、本件雇用契約締結に際し、前記認定のとおり原告の本国であるバングラディシュの会社との取引が拡大することを希望していたものであり、原告が在留資格の変更を受けた後には、原告が通訳としての業務を担当することも含めて本件雇用契約を締結した事実が認められるのであり、本件雇用契約の当初から単純作業に従事させることを予定していたような事情は認められず、その後原告が被告会社で勤務する間に、原告が日本語の能力に不足していることが判明したことから、当初予定していた職務の担当ができなくなった事実が認められる。
 原告は、被告会社が原告に対し現実にコンピューター関係業務を一度も担当させていないにすぎず、原告はこれを担当する能力がある旨主張するが、原告は本件訴訟における本人尋問においても通訳人を通じて陳述を行う等しており、自らが通訳業務を行うことは不可能であると認められ、さらに、漢字が読解できない状態では、被告会社においてコンピューター関係業務を担当することも不可能であるといわざるを得ない。
 そうすると、被告会社が原告に対し継続してプラスチック製品組立作業等を担当させたことをもって被告会社の責に帰すべき債務不履行であるとか不法行為に該当する事実を認めることはできないというべきである。〔中略〕
〔退職-退職勧奨〕
 被告会社が、平成5年11月15日ころ、原告に対し退職を勧奨したことは前記認定のとおりであるが、そのころ、被告会社は景気後退下で、被告会社の各工場の従業員に対し退職勧奨をしていた事実が認められ、このような状況において、被告会社が原告に対し書面で退職勧奨をした事実をもって、原告に対する不当な債務不履行又は不法行為であると認めることはできないというべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 被告会社の就業規則には、被告会社が業務の都合上、従業員に転任、配置転換、社外業務の派遣等を命ずる事があると規定されていることからすれば、被告会社は業務上の必要に応じ、その裁量により原告の勤務場所を決定することができるというべきであるが、当該転勤命令につき業務上の必要性が存する場合であっても他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情の存する場合は、当該転勤命令は権利の濫用になると解すべきである(最高裁判所第二小法廷昭和61年7月14日判決・判例時報1198号149頁参照)。そこで、本件配転命令により被告会社が原告に対して命じた配転の効力につき検討する。
 イ 本件配転命令は原告に対し上野原工場での勤務を命じるものであるが、本件雇用契約締結の当初、原告の勤務地を被告会社本社に限定する合意がされた事実はこれを認めるに足りる証拠はない。
 原告は、平成6年合意は、原告の就業場所を東京の本社工場とすることを条件として給与月額の変更に応じたものであり、勤務場所の限定と給与の変更は対価関係にあるから、本件雇用契約において原告の就業場所を本社に限定する効力を有するものである旨主張する。しかしながら、平成6年合意は、その明文上、本件雇用契約について勤務場所を今後恒久的に本社工場に限定する内容であるものとは認められず、原告にとって、東京本社を勤務場所とすることが、支給給与の変更といわば対価関係にあったとしても、それは平成6年合意に合意するかどうかの問題であって、平成6年合意によって本件雇用契約について原告の勤務場所を東京の本社工場に限定する旨の合意がされた事実を認めるには足りない。
 また、原告は、本件配転命令は、原告が有する人文知識・国際業務の在留資格以外の業務であるプレス作業に原告を従事させるものであり、原告の在留資格及び本件雇用契約に違反するもので無効である旨主張するが、前記認定のとおり、原告は本社工場において現にプレス作業を担当していたものであり、その作業担当を引き続き行うこととする本件配転命令が無効となるとする原告の主張を採用することはできない。
 ウ そして、被告会社は、景気後退に対する対応策としての経営合理化及び経費節減方策の一環として、原告を含む本社工場のプレス作業担当者全員に対し、配転命令をなしたものであり、前記認定事実及び前提となる事実を総合すれば、本件配転命令には業務上の必要性があり、かつ原告に著しい不利益を負わせるものであるような事情も認められないから、本件配転命令は有効なものであるといえ、これを拒否した原告の行為は就業規則16条16号の解雇事由に該当し、本件解雇は解雇権の濫用には該当せず、有効なものと認められるから、原告と被告会社間の本件雇用契約は本件解雇により終了したというべきである。