全 情 報

ID番号 07758
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 労働大学(第2次仮処分)事件
争点
事案概要  社会党の外郭団体として労働組合の活動家、成年労働者を対象とした教育機関の活動等を行う党学校Yの職員であり、かつYの職員六名で構成するA組合の執行委員X1及び書記長X2らが、Xらの担当に係る広告と発送業務の外部委託化に伴い、就業規則の規定に基づき(事業を廃止・縮小するなど、止むを得ない事業場の都合によるとき)解雇されたことから、右解雇は整理解雇の要件を充足せず無効であると主張して、労働契約上の地位の保全及び賃金の仮払を申立てたケースで、解雇当時に職員等に提示しておらず、解雇後に明らかにされた人選基準A(XらはYの業務に非協力的であり職員としての適格性を欠いていること)については、Yが解雇当時からそのような基準を設定しこれを公正に適用して被解雇者を人選したが解雇当時には従業員等に対してその旨を明らかにすることができず、かつこれを明らかにすることができなかった合理的な理由が一応存在するなどといった特段の事情が立証されていないことから、人選の合理性を認めることができず、また本件解雇当時に従業員らに明らかにされていた人選基準B(Xらの従事していた業務が外部委託化されること)にも本件解雇における人選基準の合理性を根拠付けるとまではいえないから、結局本件解雇における人選の合理性が否定され、その余の点(いわゆる四要件のうち人選の合理性以外の要件)について判断するまでもなく、Xらについてなされた本件解雇は解雇権の濫用にあたり、無効であるとして賃金の仮払申立てのみ一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 2001年5月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 21046 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例814号132頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、就業規則26条(4)所定の「事業を廃止・縮小するなど、止むを得ない事業上の都合によるとき」に該当するものと判断してされたものである。このような解雇(いわゆる整理解雇)が解雇権の濫用に当たるか否かについては、当事者が主張するとおり、(1)債務者には人員削減の必要性が認められるか、(2)債務者は解雇を回避する努力を尽くしたか、(3)解雇対象者の人選は合理的なものであったか、(4)解雇手続は妥当なものであったかについて検討を加え、これら各要素を総合考慮して判断するのが相当である。
 しかし、本件解雇のような事案において、人選の合理性((3))が否定される場合には、それだけで当該解雇は解雇権の濫用として無効になるというべきである。本件解雇が、複数の職員の中から債権者らという特定の者を被解雇者として選定するというものであった(争いのない事実)以上、その人選が不合理であっては、たとえ(1)、(2)、(4)の3要素がすべて否定されないとしても、目的(事業の縮小等による経営改善)と結果(人員の削減、すなわち解雇)との間の均衡を失していて、債務者がその与えられている解雇権の行使に当たりこれを濫用したものと評価せざるを得ないからである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 本件解雇のようにあらかじめ人選基準が設定されて行われた整理解雇事案において、人選基準を解雇前に従業員等に対して提示していないとしても、その解雇における人選の合理性が直ちに否定されることになるとまではいえないものと解される。しかし、使用者に対し、解雇の後に人選の基準を示し、これをもって人選の合理性を根拠付けることを常に許すのは、この種解雇を恣意的に行う契機を与える結果をもたらす余地があり、上記1の権利(解雇権)濫用性に係る検討に照らし相当ではないというほかはない。したがって、使用者が解雇の後に人選の基準を明らかにする場合、使用者が解雇当時からそのような基準を設定し、これを公正に適用して被解雇者を人選したが、解雇当時には従業員等に対してその旨を明らかにすることができず、かつ、これを明らかにすることができなかった合理的な理由が一応存在するなどといった特段の事情が主張・立証(疎明)された場合に限り、人選の合理性が根拠付けられるものと解される(人選基準自体が合理的であることを要することは当然である。)。〔中略〕
 債務者が本件解雇に当たり、債務者の職員等に対し、(1)(イ)の人選基準の具体的な内容を明確に示していないのみならず、第1次仮処分事件の審理段階においてもこの点を主張しなかったことが一応認められる。
 (4) 以上によれば、(1)(ア)の人選基準については、本件解雇当時債務者の職員等にとって明らかであったが、同(イ)の人選基準については、本件解雇当時債務者の職員等にとって明らかでなかったということになる。
 (1)(イ)の人選基準に関し、債務者は、第1次仮処分事件の審理段階においてこの基準を主張しなかったのは、債権者らの不適格性を殊更に明らかにして、本件の円満な解決の妨げになることを避けるためであった、しかし、本案訴訟が提起され、不当労働行為救済申立てもされるに至り、もはや債権者らとの関係修復は著しく困難になったと判断し、今般この点についての主張をすることとした旨主張する。しかし、本件解雇の有効性について裁判上の紛争となっている状況下において、解雇の有効性を基礎付ける重要な事実関係を主張しないとの判断に当たり、上記債務者の主張に係る事情が合理的な理由となるとまでは考え難い。
 他に、(1)(イ)の人選基準に関し、(2)で説示した特段の事情を認めるに足りる疎明はない。
 よって、(1)(イ)の人選基準は、本件解雇における人選基準の合理性を根拠付けるものということはできない。
 (5) 次に、(1)(ア)の人選基準の合理性について検討するに、この基準は、事務局職員のうち2名分が人員削減の対象とされたことを示すものということはできても、その業務を担当していた債権者らが当然に解雇対象者となることを示すものとはいえない。したがって、同基準は、本件解雇における人選基準の合理性を根拠付けるとまではいえない。
 3 以上によれば、1(3)の要素(人選の合理性)が否定されるから、その余の点について判断するまでもなく、債権者らについてされた本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効であるというべきである。