全 情 報

ID番号 07759
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 ミニット・ジャパン事件
争点
事案概要  靴修理・鍵複製等を主な営業目的とする株式会社Yでは長期にわたる不況の影響もあって莫大な赤字を抱えていたため、業務委託や希望退職の募集等の対策を講じてきたが、地区Aの状況は深刻であったことから、不採算店の閉鎖及び人員合理化を進め、A地区で就労していた従業員Xにも解雇回避のために業務委託、早期退職の提案をなしたが、拒否されたところ、Xの就労地域は全店舗が閉鎖となり、その他の地域でも店舗等が激減した結果、転勤等の措置も不可能であったことから、就業規則の規定(「業務の縮小、廃止、その他業務の都合によるとき」)に基づき、Xを解雇したことから、XがYに対し、右整理解雇は無効であるとして、労働契約上の地位の仮の確認及び賃金の仮払を申立てたケースで、本件解雇は、経営上の必要性、解雇回避努力、人選の合理性が認められ、手続等においても、解雇権の濫用には該当せず、有効であるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 2001年5月22日
裁判所名 岡山地倉敷支
裁判形式 決定
事件番号 平成12年 (ヨ) 72 
裁判結果 却下
出典 労経速報1781号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
債権者は、本件解雇は、整理解雇に必要な上記四要件(人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力及び解雇手続の相当性)を充足しておらず、整理解雇権の濫用であって無効であると主張するので検討するに、判例上も解雇が自由であることが前提とされており、ただ解雇権も権利の一種であるから権利濫用の法理が適用される場合があること、その場合、債権者主張の四要件は、いわゆる整理解雇が権利濫用に該当するかの判断をなすに当たっての要素を類型化した判断基準に過ぎず、厳密な意味での「要件」としたものではないと解するのが相当であって、債権者の上記主張はにわかに採用しがたい。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 債務者の経営状況は、ここ数年長期低落傾向を続けてきたこと、そのため会社では、継続的に不採算店からの撤退や希望退職の募集等の対策を講じてきたが、二〇〇〇年三月期時点での売上約六〇億に対し、同期の最終損益は二億円の赤字、二〇〇一年上期は売上約二七億に対し、最終損益は一億五〇〇〇万円の赤字と好転の兆しも窺えない状況にあること、債務者は、一旦は縮小均衡を回避しながら経営を改善するために、平成一一年八月から同一二年三月にかけて店舗及び従業員の増加策を採用したのであるが、結局その目的を達することが出来ず、業務委託、希望退職等の人員合理化策を採用するに至ったこと、債権者が就労していたA地区についても状況は深刻であり、債務者は、不採算店の閉鎖及び人員合理化を進め、一九九八年時点では、A1に四店舗六名、A2に四店舗六名、合計二店舗一二名であったものが、現時点では直営店はB店及びC店の二店舗(従業員は二店舗で四名)、業務委託店がD店及びE店の二店舗(業務委託者二名で対応)のみとなっていること等の事実を認めることができ、これによれば債務者には経営上人員整理の必要性があるものと認めるのが相当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 上記認定によれば、債務者は債権者に対し解雇回避のための業務委託、早期退職の提案をしたが、債権者はいずれも拒否したこと、合理化の結果A地区では債権者の就労すべき店舗が無くなったこと、転勤の可否についても検討したが、Aの隣接地区及びその他の地区とも人員は希望退職の募集及び業務委託化により激減していて、債権者の異動を受け入れる余地がないこと、債務者が敢えて御殿場のF店への転勤を命じなかったことには相応の合理性があることなどの事実を認めることができ、これによれば、債務者は債権者に対し解雇回避のための種々の提案をなし、債務者は解雇回避の努力を尽くしたものと認めるのが相当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 上記認定によれば、債権者が就労していたA2地域では全店舗が閉鎖となり、同地域で就労していた従業員は、債権者を除き全員退職に応じているのであるから、同地域で解雇の対象となりうるのは債権者一人であり、債権者を解雇対象者としたことに、不合理な点があるとは認めがたい。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 上記認定によれば、債務者は業務委託について債権者に説明し、具体的にE店の業務委託も提案したものの、債権者はこれを拒否したものであり、また債務者は債権者を解雇するに当たっては、解雇に至った事情について債権者の納得をえられるよう十分な説明を行う等対応しており(また、債権者は組合の中央執行副委員長として債務者の合理化の必要性についても認識していたことは前記認定のとおり)、更に債権者も少なくとも解雇当時は納得していたものと認められ、債務者の本件解雇手続は相当であって、上記認定に反する債権者の主張は採用できない。