全 情 報

ID番号 07763
事件名 業務命令の無効確認等請求事件(27904号)、雇用関係不存在確認請求反訴事件(1103号)
いわゆる事件名 互助交通事件
争点
事案概要  タクシー業を主たる目的とする有限会社Yでタクシー乗務員として勤務してきたXが、〔1〕Xが糖尿病により視力が不十分であることが原因で二度事故を起こしたことを理由にYが出したタクシーに乗務させない旨の業務命令等を違法・無効であると主張して、同業務命令の無効確認とタクシーに乗務していれば得られたであろう賃金相当額を請求し(予備的に不法行為による損害賠償請求)、また〔2〕労働組合の組合大会開催を理由としてYが出した夕方までタクシーに乗車させない旨の業務命令が違法・無効であると主張して、同業務命令の無効確認と賃金の支払を請求(予備的に不法行為に基づく損害賠償請求)したのに対し(本訴請求)、YがXに対し、Xは右業務命令〔1〕に従わず、その後正当な理由なく無断欠勤していることが懲戒解雇事由に該当し懲戒解雇したと主張して、XY間の雇用契約上の地位の不存在確認を請求した(反訴請求)ケースで、本訴〔1〕については、本件業務命令は合理性を有する適法なものであるとしてXのいずれの請求も棄却されたが、本訴〔2〕については、本件業務命令は正当な理由がない労務の受領拒否であるから、Xはこの間の賃金請求権を有するとしてXの請求が一部認容され(無効確認請求については却下)、反訴については、Xが本件業務命令〔1〕の直後、同命令を拒否して争うなどとして、その後、これに従った労務の提供をしなかったことが認められるが、これがただちに就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとはいえないとして、Yの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 2001年5月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 27904 
平成13年 (ワ) 1103 
裁判結果 一部認容、一部棄却(27904号)、棄却(1103号)
出典 労経速報1773号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 本件業務命令〔1〕は、本訴原告に対しタクシー乗務を禁じてそれ以外の乗務をさせる趣旨の業務命令であるところ、前記のとおり職務内容が全く異なる上、かなりの減収となり、しかもその期間も事故の原因が除去されたと判断されるまでという明確な定めがないものである点で本件原告に大きな不利益をもたらすものではある。
 しかしながら、上記(5)の事実関係に、前記(2)の事故の態様及び件数、(3)の病状、特に本訴原告の視力は入社当時右〇・二(矯正視力一・二)、左〇・三(矯正視力一・二)であったものが、右の矯正視力が徐々に低下していき平成一一年一〇月二〇日の時点で〇・七になったこと(なお、裸眼視力は平成一二年三月七日の時点で右〇・〇九、左〇・〇八と相当に低下していた。また、網膜に出血等が生じると当該部分では像を結びにくくなるので、中心視力にさほどの影響が出ない場合でも周辺部では危険な程度に視力低下が生じている可能性がある)、その血糖値の推移、一旦体重が減少し投薬後急激に体重が増加した経過に照らして、糖尿病網膜症による視力低下が上記事故の原因となっていたと判断することには十分な理由があり、本訴原告にタクシー乗務を継続させることは危険であるとした本訴被告の判断は相当というべきであり、また、明確な期限の定めがないことも業務の内容と危険性の原因の性質上やむを得ないものであって、本件業務命令〔1〕は合理性を有する適法なものである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 本訴被告の就業規則(書証略)52条は無断欠勤が七日以上に及び(「七日以内」との記載が誤記であることは明らかである)或いは三か月を通算して一四日以上に及んだ者(9号)、職務上の規則指示命令に従わないか、或いは違反しその情状重い者(12号)は懲戒解雇の処分を受けると定めている。〔中略〕
 いうまでもなく懲戒解雇は労働者に重大な不利益を与える処分であるから、当該行為が懲戒解雇事由に該当するというには、単に形式的に構成要件に該当するというだけではなく、それによって企業の秩序や利益が実際に損われたことを要するというべきである。
 そこで、検討するに、本件業務命令〔1〕は、本訴原告にタクシー運転業務をさせないことを目的としたものであり、社内勤務をさせることが目的ではないのであって、本訴原告が社内勤務に応じなかったことによって本訴被告に何らかの損害が生じたような事情は存しない(証拠略)。また、これによって本訴被告の秩序が乱されたというような事実を認めるに足りる証拠もない。さらに、無断欠勤の点については、本訴被告が本訴原告には乗務をさせないとして下車勤務を命じたのに対し、本訴原告が下車勤務を拒否するなどと主張して直ちに退社したのであるから、その後本訴原告が労務提供をしないであろうことは本訴被告にとって容易に認識しうる状況にあり、このような面からも上記の事実が就業規則52条9号所定の事由に該当するとはいえない。他方、業務命令違反の点についても、前記のとおり同命令は有効であるものの労働者に重大な不利益を課すものであるだけに、本訴原告がこれを無効と判断して本件訴訟を提起して争い、一審判決までの間業務命令を拒否していたとしてもやむを得ないところであり、本訴被告が本件訴訟の継続を理由に現状を維持する趣旨とも取れる態度を示していたこと(書証略)も考え併せると、この点についても、直ちに就業規則52条12号所定の事由に該当するとは認めがたい。