全 情 報

ID番号 07779
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 ティアール建材・エルゴテック事件
争点
事案概要  訴外A社との間で期間一年の雇用契約を反復更新し、その後A社がY1に吸収合併されたことにより、Y1の従業員となりY1との間で期間一年とする雇用契約を締結し正規従業員と内容が変わらない業務に従事してきたX1(A社時代からY1との右契約期間満了時までの勤務期間は通算一一年を超えている)が、Y1が取引先からの受注の減少等を理由にA社から引継いだX1を含む従業員一四〇名全員(正社員、パート等)を解雇するとともに(このうち四〇名が新たに雇用契約を締結)、X1を支部長として二名で組織する組合X2(現在は、組合員はX1のみ)の団交要求も拒否したことから、〔1〕Y1に対し、雇用期間満了日をもって解雇する旨の意思表示は権利の濫用により無効であるとして雇用契約上の地位の確認及び賃金支払を請求し、〔2〕組合X2がY1およびY1の筆頭株主である会社Y2に対し、団交要求の各事項について、Yらが団体交渉を行う義務のあることの確認を請求したケースで、〔1〕については、本件労働者の雇止めには解雇に関する法理が類推されるべきであるとしたうえで、本件解雇(雇止め)には、その必要性及び合理性が認められるのであって、これが権利の濫用として許されないと評価すべき特段の事情を認めることができないとして、請求が棄却され、〔2〕についても、有効な雇止めによってX1は従業員たる地位を失ったのであるから、Y1を使用者とする労働者の構成員が存在しないX2がYらに対し団体交渉を求める根拠もないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 2001年7月6日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 16925 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例814号53頁/労経速報1776号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 本件解雇の意思表示は、法的には、期間の定めある雇用契約について雇用期間が満了する平成10年3月31日の後契約を更新しないとの意思表示であって、いわゆる雇止めの意思表示であると解すべきであるが、原告X1の従事していた業務内容が正規従業員と異ならず、かつ10年以上にわたって契約が更新されてきたこと及び雇用契約書の契約更新に関する文言等からすれば、原告X1とA社及び同社の地位を承継した被告Y1会社との間では、会社側に景気の変動等による労働力過剰状態を生じ又は原告X1に健康上労働に耐えないという事情が認められない限りは、1年の雇用期間満了後雇用契約は当然更新されることが契約当事者双方において予定されていたというべきであり、そのような労働者の雇止めは、実質において解雇と変わりがないから、雇止めとするについては、解雇に関する法理が類推されるべきである。したがって、解雇であれば、解雇権の濫用として解雇が無効となるような事情が存在する場合には、再契約を締結しないことは権利の濫用として許されず、従前の雇用契約が更新されたと同一の法律関係を生じると解される。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 A社は、平成5年ころ以降売上げの急激な減少による赤字に苦しみ、保有不動産を売却して損失を補填する一方、新規受注の獲得、人員削減や役員報酬カットなど、一応の経営改善努力をしていたものの、これといった効果も見られず、結局赤字基調のまま被告Y1会社に吸収合併され、同被告の第2製造部として業務を継続していたところ、合併後の第2製造部の業績も依然振るわず、加えて、第2製造部の主力受注先であるBから、平成10年4月以降のアルミサッシ加工製造の発注量を従前の4割に減少させる等の通告がなされたことにより、第2製造部第1課は同年4月以降これを存続させることが経営上不可能な状態となり、これを漫然放置するときは、被告Y1会社が早晩倒産に至る可能性が極めて強い状況に立ち至っていたというべきである。そのような状況下で、被告Y1会社が、Bからの受注加工事業から撤退し、この事業部門を事実上閉鎖することとしたのは、経営上やむをえない必要があり、かつ合理的な措置であったということができる。そして、この事業部門閉鎖により、第2製造部第1課だけで69名、同第2課及び管理部門をも含めると全従業員の2分の1をはるかに超える過剰人員を生じることとなるから、人員整理の必要があったことは明らかである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 原告らは、被告Y1会社が配転、出向、一時帰休、希望退職募集等の解雇回避努力を尽くすべきであったと主張するが、前記認定事実に照らすと、被告Y1会社内部にも、また被告Y2会社とその関連会社にも、結果的には100名となった余剰人員を配置転換や出向で吸収しうるだけの労働力需要がなかったことは明らかである。そして、被告Y1会社の労働力過剰状態は、直接には新日軽からの受注激減によって生じたものであるところ、A社時代から数年来受注量の減少が続いていたことや、当時の建築関係業界が置かれた経済情勢からすると、近い将来の需要回復を期待すべき根拠は皆無であったといえるから、過剰人員に対する対処の方法として一時帰休を選択すべきであったとも考えられない。さらに、上記のような極めて多数の過剰人員を希望退職の方法で解消するというのも現実的でない上、被告Y1会社では退職金の原資となるべき金員が極端に不足しており、希望退職の方法をとった場合残留従業員の将来の退職金支払に不安が残るため、全員解雇の方法を採用したのであり、退職金受給資格のある正規従業員の大多数が所属するY1会社労働組合もむしろこの方法を希望したことも考慮すると、被告Y1会社が希望退職を募集せず、全員退職の方法をとったことには合理性があったというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 原告らは、解雇に至る手続が不当であると主張するが、前記認定のとおり、被告Y1会社は、団体交渉及び労働委員会のあっせんの場において、原告組合の代表者である原告X1に対して、6回以上にわたり、整理解雇の必要性、整理方針、整理解雇の基準、退職条件について十分な説明を行っていると認められるから、原告らの同主張も採用しがたい。