全 情 報

ID番号 07781
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 ミセラン事件
争点
事案概要  女性下着メーカである株式会社Aの販売を担当する株式会社Yに雇用されていたXが、取締役大阪店長としての取引関係が解消した会社との取引再開のために過去の取引中断の調査と関係修復を行うように指示されたが、指示どおりの対応をしなかったことから、降格されたり、また営業担当でありながら営業に回ることが少ないことなどから、さらに降格され、部下からも批判的に見られていたところ、Yにいづらくなり退職届を提出したが、その後、〔1〕部下に適切な指示、教育ができなかったこと、〔2〕取締役大阪店長及び営業部長として在職中、商品の発注管理、仕入管理、在庫管理を怠り、会社の信用を失墜させ、取引が減少し大幅な業績悪化となったこと、〔3〕取引先との取引修復に関する業務命令に虚偽の報告をし、これに従わなかったことを理由に懲戒解雇され、退職金が不支給となったことから、自己都合退職であったと主張して退職金の支払を請求したケースで、懲戒解雇事由のうち〔3〕についてのみ懲戒解雇事由が肯定できるが、その業務命令違反だけをもって懲戒解雇をするのは過酷に過ぎるというべきであり、業務命令違反の背景に、日常からの職務怠慢があることが認められるが、この点は二回の降格によって評価済みであるとして、Xに対する懲戒解雇はその相当性を欠くもので解雇権濫用になるとして、退職金支払請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 風紀紊乱
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 2001年7月13日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 7335 
裁判結果 認容
出典 労経速報1783号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-風紀紊乱〕
 被告は、就業規則第四〇条5項「素行不良で会社の秩序風紀を乱したとき」に該当する懲戒解雇事由として、原告が、被告に対する不平不満を吹聴した旨主張するところ、(書証略)には、これに沿う記述があり、また、(人証略)もこれに沿う供述をするものの、具体的ではなく、これをもって、同懲戒事由に該当するということはできない。また、部下あるいは新入従業員に対する適切な指示、教育ができなかったため、部下から馬鹿にされ、社内の秩序を乱した旨主張し、(人証略)はこれに沿うが、これは要するに、管理者としての能力に欠けていたというに尽きるもので、企業秩序維持のために設けられた懲戒規定にいう素行不良者とは異なるものというべきであり、降格、降級の理由とはなっても、それだけで懲戒解雇事由となるものということはできない。
 さらに、被告は、原告が売上げを伸ばすことを約束して増員要求しながら、その新入従業員に適切な教育、指導も行わず、被告は無駄な経費を支出させたと主張するが、この点についても、店長としての職責を果たさなかったということにすぎず、懲戒規定にいう素行不良で会社の秩序を乱したという事実に該当するということはできず、懲戒解雇事由とはならないものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 (2) 被告会社は、就業規則第四〇条11項「故意又は重大な過失により、会社の信用を傷つけ、もしくは多額の損害を与えたとき」に該当する懲戒解雇事由として、原告が、平成一〇年から平成一二年にかけて取締役大阪店長及び営業部長として在職中、商品の発注管理、仕入れ管理、在庫管理を怠り、主要取引先である株式会社B、株式会社C等から苦情が寄せられ、これにより、信用を失墜し、取引が減少し、大幅な業績悪化となった旨主張する。そして、(人証略)によれば、原告の在庫管理が十分でなかったことや上記の取引先などから担当者を変えてもらいたいといった苦情があったことを認めることができるが、その具体的な内容は明らかでなく、これによって被告の信用がどのように失墜し、どれだけの損害が生じたかは明らかでない。具体的に特定された事実の立証がない以上は、これらの事実も、結局のところ、原告が管理職として職責を果たさなかったというものであり、降格等の人事上の措置によって対処すべき事柄であって、企業秩序のために認められる懲戒権行使の事由になるとはいいがたい。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 (3) 被告は、就業規則第四〇条6項に該当する懲戒解雇事由として、Dとの関係の調査及び取引修復に関する業務命令に虚偽の報告をし、これに従わなかった旨主張するところ、前述のとおり、原告が、被告の再三に及ぶDとの関係の調査及び取引修復に関する業務命令に従わなかったことは、これを認めることができる。原告本人は、これを被告の原告に対する嫌がらせであるかのように述べるが、その業務命令が原告に対する嫌がらせとなる事情は認められない。原告本人は、被告の当初の指示は、調査だけであったというのであるが、例え、調査目的だけであるとしても、原告がこれに従わなかったことは明らかである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 (4) 以上によれば、原告に対する懲戒解雇事由としては、就業規則第四〇条6項に該当する懲戒解雇事由が肯定できるが、その違反によって被告に生じた損害は、それほど大きいものであるとはいえない。業務命令が取引先との関係修復を命じるものであるから、原告がこれに従ったとしても、関係修復ができたかどうかは明らかでないし、被告代表者の供述から窺われるように、取引中断前の取引量もさほど大きなものでなかったことからすれば、その業務命令違反だけをもって懲戒解雇をするのは、苛酷に過ぎるというべきである。業務命令違反の背景に、日常からの職務怠慢があることは前記認定事実から認められるが、この点は、二回の降格によって評価済みのところである。そうであれば、原告に対する懲戒解雇は、その相当性を欠くもので解雇権の濫用となるというべきである。