全 情 報

ID番号 07785
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 大阪北部農業協同組合事件
争点
事案概要  農協共同組合Yで課長代理、課長、次長等の努めを経て、共同活動推進部長と施設課課長を兼務していたXが、不正債権の存在、これに対する幹部職員の関与を隠蔽するために監査資料の改竄したために不良債権の発覚が遅れたこと、問題債権の発覚後も不適切な対応により、Yに約三四億円もの不良債権を発生させたことが、就業規則の各規定(破廉恥で、背信的な不正付議の行為を行い職員全体の対面を汚し、組合の名誉、信用を傷つけたとき等)に該当するとして懲戒解雇されたため、右懲戒解雇は無効であると主張して、雇用契約上の地位の仮の確認及び賃金の仮払いを申立てたケースで、Xらの行為は、経営基盤を脅かす不正な行為あるいは少なくともこれに準ずる行為であるといえるとして、就業規則の懲戒事由に該当するとしたうえで、監査資料の改竄行為という行為自体が重大な不正行為であり、Yには三四億円の不良債権が発生していること、他の処分者との均衡からすれば、Xに対する懲戒解雇処分はやむを得ないものといわざるをえず、相当性をかくものとはいえないとして、申立てが棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 2001年7月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10038 
裁判結果 却下
出典 労経速報1783号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 この担保別債務者一覧表は、萱野支店の監事監査のために提出を求められたものであり、監事監査は正常な経営のため必要な行為であることを考慮すれば、同担保別債務者一覧表を改竄した債権者の行為は、経営基盤をおびやかす不正な行為、あるいは少なくともこれに準じる程度の不都合な行為であるといえるから、就業規則(12)、(14)、(16)に該当するものといえる。〔中略〕
 担保別債務者一覧表の債権者による改竄行為は、Aらに対する不正債権の存在、これに対する債権者ら箕面市農協の幹部職員の関与を隠蔽するために行われたものである。
 この点、債権者は、B組合長に改竄しないように進言したが、同組合長の「なんとかならないのか」と言う発言を受けたCが債権者に改竄を命じたものである、監事会は他の資料から当該不良貸付の存在を知り得たのにこれを看過したものである、本件改竄行為により実害は生じていないと主張するが、B組合長の意図を受けたものであるとの主張(書証略)に照らしたやすく採用しえず、監事会が看過したことは、債権者に対する処分の軽重の判断材料とはならず、改竄行為により本件不良債権の発覚が遅れたことは事実であり、実害が生じていないとの主張も採用しえない。
 イ 債権者は、Aらに対する問題債権の存在が発覚した後の箕面市農協内での対応において、Aとの交渉の窓口を一人で担当し、前記認定のとおり、貸付の担保となっていた貯金の中で、箕面市農協としては、有効性を主張しうる可能性のあった貯金の払い戻しや、ほとんど価値のない本件不動産を担保とする回収見込みのないAへの追加融資、Dへの従業員枠外の貸付などに積極的に関与してきたものであり、これらの行為の結果、約三四億円もの不良債権を債務者に発生させることになったものである。〔中略〕
 以上によれば、監査資料の改竄行為という行為自体が重大な不正行為であることや、B組合長、E参事、債権者らの一連の行為により結局債務者に三四億円もの不良債権が発生していること、そして他の処分者との均衡からすると、債権者に対する懲戒解雇処分もやむをえないものといわざるをえず、相当性を欠くものとはいえない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 債務者の就業規則によると、懲戒処分については、賞罰委員会の審議を経ることが求められている。また、債務者においては、平成一二年九月二六日施行の賞罰委員会規程が存在する(書証略)。債権者に対する懲戒処分は、就業規則及び同規程に従い、賞罰委員会である特別委員会により(書証略)、債権者に対する事情聴取等の手続きを経て行われたものであり(書証略及び審尋の全趣旨)、当該手続きについて就業規則等に違反することを認めるに足りる疎明はない。