全 情 報

ID番号 07790
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 オクト事件
争点
事案概要  パッケージの企画、包装資材全般の販売を業とする株式会社Y(従業員一八名程度)の従業員Xら三名が、Yでは経営状態の改善のために営業職を内勤営業に切り替えるなどの営業の効率化等が図られていたものの、経営悪化を理由として解雇されたため、右解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位の仮の確認及び賃金の仮払いを請求したケースで、Yは経営が悪化している一方で、本件解雇が行われた同年度に新規採用を行い、また本件解雇のわずか二カ月前に翌年度の新規採用者を二名内定させているほか、特定の従業員に対し、その功績を理由に高額な賞与を支給していることからすると、YにおいてXら三名を解雇して、人員削減措置を経営上取らざるを得ない必要性があったとは言い難く、また希望退職者の募集を募るなどの解雇回避の手段もとっておらず、業務成績を基準とした人選基準も、そもそも勤務評価基準のみならず評価結果の表示方法も明らかではなく、Xに対して適性な勤務評価がされていたとは認めがたいとして、本件解雇は経営上のやむを得ない必要がありかつ合理的措置であったとは言えず、無効であるとして、賃金の仮払についての申立てが一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 2001年7月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10044 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1787号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 少なくとも、上記認定事実によれば、債務者において、余剰人員が生じていたあるいは経費節減のために新卒者を採用したとは言い難く、むしろ、本件解雇は債権者らを解雇して、新卒者を採用するといういわば従業員の入れ替えを行ったものといえるのであり、その入れ替えに当たって、それが経営上合理的であったと認めるに足りる的確な疎明資料はない。さらには、債務者は、経営が悪化している一方で、(書証略)によれば、新規顧客獲得等の目的で新たに債務者の東京営業所長として人員を同業者から迎え入れ、この者が功績をあげたことを理由に平成一二年度において合計二〇二万円という他の従業員と比較して格段高額な賞与を支給している(もっとも、(書証略)によれば、この者に対して実際支給された金額は一七万六一〇〇円のようである)ことが一応認められる。
 したがって、このように、本件解雇が行われた同年度に新規採用を行い、また、本件解雇のわずか二か月前に翌年度の新規採用者二名を内定していること、しかも新規採用者はいずれも新卒者であり債務者の業務について未経験者であること、特定の従業員に対し、その功績を理由に高額な賞与を支給していることからすると、債務者において、債権者ら三名を解雇して、人員削減措置を経営上取らざるを得ない必要性があったとは言い難い。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、本件解雇に先立ち、希望退職者を募るなどの解雇回避の手段はとっていない。この点について債務者は、債務者のような小規模な会社で希望退職を募ることは難しい旨を主張するが、上記認定事実によれば、債権者らに解雇通知を行った後である平成一三年一月に二名の自主退職者が存在しており、債権者らに対する解雇通知のわずか一か月後にこうした自主退職者がいたことからすれば、もし債務者に人員削減の必要性があるのならば、債務者において適当な期間を定め、希望退職募集あるいは退職勧奨などの方法を実施していれば、これによる人員削減は十分可能であったと推認できる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 債務者は、解雇の対象となるべき人選の点について、債権者らは、債務者における業務成績も悪かったと主張し、その疎明として、(書証略)を提出している。
 通常、勤務実績は、従業員の勤務成績、能力、協調性等の人事考課や欠勤、遅刻、早退等の勤怠から判断され、使用者から見れば、このような勤務実績を選定基準に用いることによって整理解雇により不良労働力の排除ができることになるが、勤務実績は、使用者の評価に基づくものであるから、使用者の主観を完全に排除することは非常に困難であるし、勤務成績や能力の評価は相対評価にならざるを得ない。しかし、勤務実績を人選基準として用いるためには、その評価が使用者の恣意に委ねられていないことは必要であり、人選基準として客観性があることが必要である。したがって、人選基準の設定としては、評価項目、評価対象となる期間、評価方法等が明らかであることが求められると解すべきである。〔中略〕
 勤務評定において、債権者らよりも評価が低い者がいたにもかかわらず、債権者らが整理解雇の対象となったことについて、債務者の恣意的判断が多分にあったのではないかとの疑問が生じる。また、そもそも債務者は、本件勤務評定は客観的なものであると主張するが、その評価根拠となる基準がいかなるものであるのかを明らかにする的確な疎明資料はない。むしろ、(書証略)において、勤務評価を担当したAは、平成一二年下期の評価は三段階評価しかしなかった旨を記載しているが、(書証略)は同時期の勤務評定を五段階で行なっていることが一応認められるのであり、そもそも評価基準のみならず、評価結果の表示方法も明らかではなく、債権者らに対して適正な勤務評価がされていたとは認めがたい。