全 情 報

ID番号 07794
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 イング事件
争点
事案概要  通信販売業務全般の代行等を主たる業務とする株式会社Yに入社し、得意先顧客に対し、商品を電話で継続・再受注する部署に配属されたXが、社員登用についての説明会の際、正社員になることについては留保してパート社員となっていたが、その後、労基署の監督官の立会いのもとでYから求められたXの雇用期間を三カ月とする労働条件通知書への署名押印も拒否していたところ、Xの売上げノルマが五〇%未満であることのほか協調性、遅刻等を問題として、右契約期間満了日をもって雇用契約が更新されなかったことから、右解雇は解雇権の濫用により無効であるなどと主張して労働契約上の地位にあることの仮の確認及び賃金の仮払い、社会保険料等の仮払い等を請求したケースで、YはXに対し、雇用期間満了により雇用契約は終了し、契約更新についてはこれを拒絶していたのであるから、Xを解雇したとはいえないところ、XとYとの間の雇用契約に期間の定めがあったとは認めるに足りる疎明はないから、雇用契約に定める期間満了を理由としてXが退職したと認めることはできないし、またXを解雇したと認めることはできないとして、賃金の仮払いについて申し立てが認容された事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の期間
裁判年月日 2001年8月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10049 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1784号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の期間〕
 債権者が債務者に入社した平成一二年一〇月二日時点の債権者の雇用形態及び労働条件を明らかにする疎明はないし、債務者が、債権者に対し、雇用時点あるいは平成一三年二月に行われた社員登用の説明会において、パート社員に雇用期間の定めがあるとの説明をしたとの疎明もない。むしろ、債権者は、同年三月一九日に労働条件通知書への署名押印を拒否しており、これらのことを併せて考えると、債権者と債務者の雇用契約において、雇用期間の定めがあることがその内容になっていたと認めることはできない。この点、債務者は、債権者と同時期に債務者に入社した三名の、それぞれにつき、平成一二年一〇月二日付け、平成一三年一月三日付け及び同年四月一日付けの「労働契約書(パート・アルバイト専用)」と題する書面(書証略)を提出し、これらには、上記三名はいずれもパート社員であり、その第二条において、雇用期間が定められている旨の記載があることが一応認められるものの、上記認定事実によれば、債務者は平成一三年三月五日の時点で労基署から労働条件明示等の是正勧告を受けていることからすると、これらの書面がすべて上記日付の時点で作成されていたかどうかは疑わしく、これをもって、直ちに債権者との雇用契約の内容もこれらと同様であったと推認することはできない。また、債務者は、平成一三年四月一日実施のパートタイマー就業規程(書証略)を提出し、この第三章第九条には、パートタイムの雇用契約期間は一年の範囲内とすること、但し、必要に応じて契約を更新できること、さらに第一〇条〔1〕には、雇用期間が満了したときは退職とするとの記載があることが一応認められるが、同就業規程の実施時期を考えると、債権者が期間の定めがあることを認識して債務者と雇用契約を締結したと認めることもできない。
 なお、債務者は、雇用契約に定めた期間満了による退職の他、業務上の理由により債権者を解雇したとも主張するが、債務者が債権者を解雇したと認めるに足りる疎明がないことは上記に記載したとおりである。
 また、仮に、債務者の債権者に対する期間満了による雇用契約の終了及び契約更新拒絶の通知に、債務者の債権者に対する解雇の意思表示が含まれていたと解したとしても、解雇を相当と認めるに足りる疎明はない。