全 情 報

ID番号 07795
事件名 転勤命令無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 新日本製鉄(総合技術センター)事件
争点
事案概要  鉄鋼の製造等を目的とする株式会社Yの従業員で北九州市内にある中央研究本部の一部門で鋼材等に関する試験実験業務に従事していたX1及びX2が、Yでは地理的に分散していた研究開発体制を整備するために、各所にあった中央研究本部及び設備技術本部を統合して全社共通部門としての技術開発本部を発足させて、その組織中の総合技術センターを千葉県富津市に置くこととなったのに伴い、同センターの人員は基本的に転勤により充足することとなっていたところ、Xらが所属していた研究所でも、機能を移す予定の業務に従事する技術職員全員が人事措置の対象とされ、その際に、本人や同居の家族の疾病等特段の事情がある者のみ人選の過程で参酌され、八幡にある研究部への人員措置の対象とされたが、Xらの個人事情は特段の事情に該当しないとして、総合技術センターへの配転命令が出されたことから、Yに対し、個別的合意のない本件配転命令は、労働契約に反し、また権利濫用に該当するなどと主張して、同配転命令の無効確認を求めるとともに、X2の妻X3が、Yの転勤命令による夫の単身赴任により、幸福追求権等を侵害されたとして、慰謝料を請求したケースの控訴審で、原審の結論と同様に、就業規則の規定、労働契約締結時に勤務地を限定する旨の明示の合意がなされなかったことからして、YはXらにその個別的同意なしに、転勤を命じる権限を有するとしたうえで、Yにおいては、経営上の観点から総合技術センターを設置する必要性、その立地選択の合理性、人員措置の必要性及び人選の合理性も認められ、本件転勤命令によりXらが被る経済的、精神的不利益は、転勤に伴い、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えているとまでは認めることができないとして、Xらの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 2001年8月21日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 917 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働判例819号57頁
審級関係 一審/07382/福岡地小倉支/平11. 9.16/平成3年(ワ)890号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 以上認定の就業規則及び労働協約中の業務上の都合(必要)により、社員(組合員)を転勤させることがある旨の規定の存在、控訴人両名の入社時には、既に、技術職社員の他の製鉄所(事業所)への転居を伴う転勤措置が実施されており、今後、新たな製鉄所の設置に伴い、同措置は規模を拡大して継続される状況にあったこと、控訴人両名と被控訴人(旧A)との労働契約締結の際、勤務地を限定する旨の明示の合意はされなかったこと等の事情によれば、被控訴人は、控訴人両名に対し、その個別的同意なしに、転勤を命じる権限を有するものと認めるのが相当である。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 控訴人らは、被控訴人に転勤命令権があるとしても、本件転勤命令は権利を濫用するものであり無効であると主張するところ、使用者の転勤命令権は、無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない。しかし、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである(最高裁昭和61年7月14日第2小法廷判決・裁判集(民事)148号281頁参照)。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 以上、(1)ないし(4)で認定、判断したところよりすれば、本件転勤命令は、業務運営の合理化、労働力の適正配置に合致し、これに寄与するものであると認められるから、業務上の必要性は存在するということができる。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件転勤命令に不当な動機ないし目的が存在するか否かについて控訴人らは、本件転勤命令は、技術職社員の一部を早期退職させるという目的をもったものであり、権利濫用に当たると主張するが、同主張を客観的に裏付ける証拠がない上に、かえって、上記(二)で認定、判断したとおり、本件転勤命令は被控訴人の業務上の必要性に基づくものであると認められるから、控訴人らの上記主張は採用できない。
 確かに、富津へ転勤した第3技術研究所の技術職社員のうち、相当数の者(〈証拠略〉によれば、平成10年2月1日までの間に18名となっている。)が、自己都合により、退職していることが認められるが、他方、被控訴人は、雇用確保の観点から、同転勤者に対し、出向措置を講じる等しており(〈証拠略〉によれば、第3技術研究所出身の技術職社員の83名が転勤後出向している。)、被控訴人が、同研究所の技術職社員の早期退職を意図して、本件転勤措置を取ったということはできない。