全 情 報

ID番号 07805
事件名 地位保全仮処分申立事件
いわゆる事件名 九州航空事件
争点
事案概要  航空代理業務等を業とする株式会社Yが大分県の行う防災ヘリコプターの運航管理業務の受注を目指していた時期にY社に採用された操縦士の資格を有するXが、右ヘリコプターの導入の準備作業やその離着陸場の現地調査に従事し、その後、防災ヘリコプター事業部の部長に就任し、同ヘリコプター操縦士として県央空港内で業務に従事するほかジェットレンジャーの操縦訓練に従事していたが、県央空港内運航部航努課にてヘリコプター事業の操縦士と航空事業の営業業務の兼任を命じる配置転換命令が出されたことから、Xが労働契約上、職種を防災ヘリコプター操縦士、勤務場所を県央空港内防災ヘリコプター事業部事務所内とする特約があったとして、右配転命令の効力停止等を申立てたケースで、同契約の締結にあたっては、Xが少なくとも主として操縦士としての業務に従事することはYとの間で黙示的に合意されていたといえるが、Xの主張するような職種、勤務場所を特定するような特約の存在は認めることができず、Yから積極的に営業にも従事する旨述べられて雇用契約が締結されていたことからすると、Xの職種を操縦士に限定せず、付随的に営業業務を行うことが予定されていたというべきであり、本件配転命令はそれ自体として無効なものということはできないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 2001年9月10日
裁判所名 大分地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 76 
裁判結果 却下
出典 労経速報1782号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 前記認定のとおり、債務者は防災ヘリコプター事業の運航管理業務の受託に備えて債権者を雇用し、以来、債権者は、平成一三年四月からジェットレンジャーの操縦訓練に従事したほかは、専ら防災ヘリコプターの操縦及びこれに付随する業務に従事してきたことが認められる。
 しかしながら、債権者の採用当時、前記運航管理業務の委託を受けることができるかどうかは不確定であったし、その委託契約は一年ごとに更新されるものであること(書証略)、前記雇用契約の締結に当たって、債権者としても特に防災ヘリコプターの操縦士に職種を限定すべき理由も見当たらないことからすると、債権者の職種が防災ヘリコプターの操縦士に限定されていたとまで認めることはできない。また、債権者がこれまで県央空港内の防災ヘリコプター事業部事務所において勤務してきたのは、防災ヘリコプター操縦士としての職務を遂行するためであったというべきであり、同操縦士として職種が限定されていたと認められない以上、勤務場所が前記事務所内であることについても同様に特約があったと認めることはできない。
 (3) さらに、前記認定のとおり、債権者の入社に際して、債務者側から営業に関わらない意識の者は採用しない旨述べられたのに対し、債権者から営業にも積極的に従事する旨述べられて雇用契約が締結されたことからすると、債権者の職種を操縦士に限定せず、付随的に営業業務も行うことが予定されていたものというべきである。
 (4) したがって、債務者は、航空事業の営業業務を債権者に兼任させることができるというべきであるが、前記のとおり、債権者についてはその業務を主として操縦士とする旨の黙示の合意があったというべきであるから、債務者における飛行業務が縮小されたなどの特段の事情のない限り、債権者が従事すべき営業はいわば従たるものでなければならず、操縦士としての業務を有名無実とするような配置転換又は業務命令は許されないというべきである。そうすると、平成一三年八月の勤務割表に基づく債権者の勤務内容はその大半が営業であり、操縦士としての勤務は有名無実化しており、前記特約に反する可能性が大きいが、既に八月は経過しており、今後の勤務割の内容は不明であって、これら具体的な勤務内容は本件配転命令の内容になっていないというべきであるから、その効力に影響を及ぼすものではない。
 以上によれば、本件配転命令はそれ自体として無効なものということはできない。