全 情 報

ID番号 07830
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ブレーンベース事件
争点
事案概要  医療材料・機器の製造販売を業とする株式会社Yに、試用期間三カ月として雇用契約を締結し、販売商品の発送業務、商品発表会の開催案内をパソコンのファックスモデムを利用して全国歯科医への送信等を行い、将来的には商品知識習得後、顧客となるべき歯科医等への商品説明業務にも従事することが期待されて入社したXが、試用期間中に、右業務に従事していたところ、歯科医が緊急を要するとして発注してきた依頼に速やかに応じない態度をとり、また採用面接時にパソコン使用に精通していると述べたにもかかわらず、それほど困難でない作業も満足に行うことができないほか、会社業務にとって重要な商品発表会の翌日には参加者にお礼の電話等をするなどの業務が行われ社員は必ず出勤するという慣行になっているにもかかわらず、休暇を取得するなどしたことを理由に、試用期間満了直前に解雇されたことから、右解雇は解雇権濫用にあたるなどと主張して、労働契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、本件解雇は客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認される場合に該当するとされたが、争いがあった解雇の時期についてはXの主張が採用され、Xの主張する解雇日から三〇日経過し本件解雇の効力が生じるまでの未払賃金について請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法20条1項
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 2001年12月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 12323 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1789号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 原告の入社時から本件解雇時まではいまだ試用期間であったところ、一般に、試用期間の定めは、当該労働者を実際に職務に就かせてみて、採用面接等では知ることのできなかった業務適格性等をより正確に判断し、不適格者を容易に排除できるようにすることにその趣旨、目的があるから、このような試用期間中の解雇については、通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められるというべきである。しかし、一方で、いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇用関係に入った者は、本採用、すなわち、当該企業との雇用関係の継続についての期待を有するのであって、このことと、上記試用期間の定めの趣旨、目的とを併せ考えれば、試用期間中の解雇は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認される場合にのみ許されると解するのが相当である。本件においては、その試用期間が上記のような趣旨、目的とは異なる趣旨、目的にあるものであるとはうかがわれないから、本件の試用期間も上記趣旨、目的にあるものと認められ、そうすると、試用期間中である本件解雇に関し、その有効性の判断に当たっては、上記の基準が妥当すると解すべきである。
 上記2の認定にかんがみれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当と是認される場合に当たると解するのが相当である。
 よって、本件解雇は有効である。〔中略〕
〔解雇-労基法20条違反の解雇の効力〕
 労働基準法二〇条所定の予告期間を置かず、また、予告手当の支払をしないで労働者に解雇を通知した場合、その解雇は即時解雇としての効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の三〇日の期間を経過するか、又は予告手当の支払をした場合には、解雇の効力を生ずるものと解すべきである(最高裁第二小法廷昭和三五年三月一一日判決民集一四巻三号四〇三頁)。被告が本件解雇に関し、即時解雇を固執する趣旨でないことは明らかであるから、本件解雇につき、同条所定の三〇日の期間を経過した平成一一年五月一日をもってその効力を生ずると解するのが相当である。