全 情 報

ID番号 07837
事件名 労災保険金不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 姫路労働基準監督署長事件
争点
事案概要  下水処理施設の維持管理業務に従事していたD社の従業員であるAが、勤務時間中に脳溢血で死亡したのは業務に起因するものであるとして、Aの妻Xが、労災保険給付たる遺族補償年金、遺族特別支給金等を請求し、Y(姫路労働基準監督署長)が不支給処分をしたのに対して、その取消しが求められたケースで、遺族特別支給金は、Yの裁量による行政上の措置の性質を有するものでその支給に関する決定には処分性がないとして却下され、遺族補償年金等については、Aの死亡に業務起因性がないとして棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法23条1項
労働者災害補償保険法7条1項1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / リハビリ、特別支給金等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2000年3月3日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (行ウ) 49 
裁判結果 一部却下、一部棄却(控訴)
出典 訟務月報47巻6号1526頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-リハビリ、特別支給金等〕
 労災保険法二三条一項は、「政府は、この保険の適用事業に係る労働者及びその遺族の福祉の増進を図るため、労働福祉事業として、次の事業を行うことができる。」、同条二項は、「前項各号に掲げる事業の実施に関して必要な基準は、労働省令で定める。」と規定している。また、労働者災害補償保険特別支給金支給規則(労働省令)は、労災保険法二三条一項の労働福祉事業として特別支給金の支給を行う旨を定める(同規則一条)とともに、その請求手続、支給内容及び要件を定めている。
 右各規定によれば、遺族特別支給金は、労災保険法による保険給付そのものではなく、その請求手続、支給内容及び要件は労災保険法自体では規定されることなく労働省令である労働者災害補償保険特別支給金支給規則の規定に委ねられていることが認められる。また、労災保険法及び労働者災害補償保険特別支給金支給規則のいずれにおいても、遺族特別支給金について、行政庁が行う決定の形式、申請者に対する通知、行政不服申立てや訴訟との関係についてなんらの規定も置かれていない。これらの事実を考慮すると、遺族特別支給金の支給は、被告の裁量による行政上の措置の性質を有するものと解するのが相当であるから、労働基準監督署長による遺族特別支給金の支給に関する決定を行政処分とみることはできない。
 そうすると、原告の本件請求のうち遺族特別支給金を支給しないとする処分の取消しを求める部分は、行政事件訴訟法三条二項の定める「処分の取消しの訴え」に該当せず、違法というべきである。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aの本件発症前の勤務時間及び業務内容はいずれも過重なものと認めることはできないし、本件発症当日に通常と異なる業務や特に負荷のかかる業務に従事したと認めることもできない。
 他方、Aの血圧値は、長年境界域にあって特に拡張期血圧が高い傾向にあり、平成元年一二月以降は、拡張期血圧が一〇〇を超えて「要精検」を指示されていたこと、それにもかかわらずAは医師の診察を受けることなく高血圧の成因とされている飲酒及び喫煙を継続していたこと、本件発症に直前の入浴が寄与した可能性もないとはいえないことなどの事情が認められる。
 本件において、業務起因性に関する医学的知見は、前示のとおり肯定、否定の双方がみられ、当裁判所はB医師の見解を採用するもので、C医師の見解は、Aの従事していた業務のうち、作業環境、肉体的負荷のある作業の有無等事実関係の多くの点について、前示のとおり当裁判所の前示認定、判断と異なる前提に立つものであるから、採用の限りではない。
 以上によれば、本件発症につき業務が他の原因と比べて相対的に有力な原因となっていたと認めることはできず、本件発症が業務に起因するものであるということはできない。
 したがって、本件発症について業務起因性は認められないとした本件処分になんら違法はない。