全 情 報

ID番号 07838
事件名 分限免職処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 芦屋郵便局長事件
争点
事案概要  郵政事務官として芦屋郵便局に勤務していたYが、X(芦屋郵便局長)から公務員としての適格性を欠くとして国家公務員法に基づき分限免職処分を受けたことに対して、当該処分は、事実誤認で理由がなく、精神病者の排除を目的としたもので、平等原則違反であるとして処分の取消しを求めて争ったケースで、原審がYの請求を認容したのに対してXが控訴していたが、心身の故障があると疑われる職員で、官職に必要な適格性を欠き、しかも正当な理由なく受診命令を拒否している者は、医師二名の診断がない場合であっても、簡単に矯正できない持続性を有する素質等に起因し、その職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生じる高度の蓋然性が認められるときは、国家公務員法七八条二号のほか、同条三号にも該当するとして、原判決を取り消し、Yの請求を棄却した事例。
参照法条 国家公務員法78条3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 病気
裁判年月日 2000年3月22日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (行コ) 27 
裁判結果 取消(上告)
出典 タイムズ1045号148頁/訟務月報47巻7号1964頁
審級関係 一審/神戸地/平11. 2.25/平成6年(行ウ)36号
評釈論文 長久保尚善・平成13年度主要民事判例解説〔判例タイムズ1096〕288~289頁2002年9月
判決理由  (一)被控訴人は、前示のとおり、三年の病気休職期間(昭和六二年一二月一四日から平成二年一二月一三日)を経過し、九か月の特例復職期間(平成二年一二月一四日から平成三年九月一三日)を経過するも、自律神経失調症(抑うつ状態)が回復せず、心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、これに堪えないことが明らかである(前示第三の四1(五))。それに、被控訴人は、前示のとおり、何ら正当な理由なくして、控訴人の数回にわたる受診命令に従わなかった(前示第三の四2(三)(3))。それ故、被控訴人は、国公法七八条三号(職務適格性の欠如)、人事院規則七条三項の要件を充足すると判断して、本件処分をしたのである。
〔解雇-解雇事由-病気〕
 次の(一)(二)の要件をともに充たす職員は、(一)について医師二名による診断がない場合にも、「その官職に必要な適格性を欠く」(国公法七八条三号)職員といえる。
 (一) 適格性欠如の要件
 (1) 長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によっても治癒し難い心身の故障があると認められ、その疾患又は故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと。
 (2) この(1)に加え、次の(二)の事由などの行動、態度に徴表される一定期間にわたって継続している状態により、当該職員が官職に必要な適格性を欠くこと。
 (3) 現に就いている職務に限らず、配転可能な他の職務を含めて考慮しても、なお、当該職員の疾患又は故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと。
 (二) 受診命令拒否の要件
 (1) 任命権者が、心身の故障があるとの合理的な疑いがある職員に対し、職務遂行能力の有無を把握し、分限免職の要件を充たすか否かを判断するために、特定の医師を指定して受診を命じていること。
 (2) 当該職員が正当な理由がなく受診命令を拒否していること。〔中略〕
 本件処分は、国公法七八条三号、人事院規則七条三項に基づく適法なものであり、その裁量権行使を誤った違法があるものとは認められない。本件処分の取消を求める本訴請求は理由がないので棄却すべきである。〔中略〕
 国公法七八条一号ないし三号はいずれも職員の適格性の欠如に関する規定であって、三号はその一般規定であり、一号及び二号は適格性を欠く場合の例示規定である。したがって、心身の故障のため一号の勤務不良に当たる場合(一号と二号の重複該当)や、心身故障のため三号の適格性を欠く場合に当たることもあり得るのであって、一号ないし三号は一定の状態に対する評価の側面を異にするにすぎないものといえる。
 5 分限処分が免職である場合は、現に就いている職務に限らず、配置転換が可能な他の職務を含めて、これらすべての職についての適格性の有無を特に厳密かつ慎重に判断することが要求される(以上につき、最判昭和四八・九・一四民集二七巻八号九二五頁参照)。〔中略〕
 他方、「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない」職員が、正当な理由なく任命権者の指定する医師の診察を拒み続けた場合には、任命権者は、医師二名の診断書を取得することができず、当該職員を国公法七八条二号(心身の故障)に基づき分限免職することができない。
 このような場合でも、国公法七八条三号(職務適格性の欠如)に基づき分限免職ができないとすると、正当な理由なくこれを拒否した職員のみが分限免職を免れることになり、不公平かつ不合理な結果を招く。〔中略〕
 心身の故障があると疑われる職員で、次の(一)(二)の要件を充たす職員は、(一)(1)について医師二名の診断がない場合であっても、簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因して、その職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる(前示一3)ときは、国公法七八条二号のほか、同条三号の「その官職に必要な適格性を欠く」職員にも当たる。
 (一) 適格性欠如の要件
 (1) 長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によっても治癒し難い心身の故障があると認められ、その疾患又は故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと。
 (2) この(1)に加え、次の(二)の事由などの行動、態度に徴表される一定期間にわたって継続している状態により、当該職員が官職に必要な適格性を欠くこと(前掲最判昭和四八・九・一四参照)。
 (3) 現に就いている職務に限らず、配転可能な他の職務を含めて考慮しても、なお、当該職員の疾患又は故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと。
 (二) 受診命令拒否の要件
 (1) 任命権者が、心身の故障があるとの合理的な疑いがある職員に対し、職務遂行能力の有無を把握し、分限免職の要件を充たすか否かを判断するために、特定の医師を指定して受診を命じていること。
 (2) 当該職員が正当な理由がなく受診命令を拒否していること。