全 情 報

ID番号 07863
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 チボリ・ジャパン(楽団員)事件
争点
事案概要  A公園を運営、経営する株式会社Yの運営する楽団と主演業務委託契約を結んで入団し活動を行ってきた楽団員X1,X2,X3ら三名(日本音楽家ユニオンに加入している)が、平成一一年度のオーディションにおいて不合格とされ、次期契約を締結する意思はないとの通知を受けたため、Yに対し、本件契約の実態は期間の定めのない労働契約であり、Yのオーディションの方法、評価は不当であって、本件更新拒絶は、解雇権の濫用かつ不当労働行為であり無効と主張して、Yの楽団員としての地位を請求したケースで、〔1〕本件契約は、各楽団員のいずれもYの指揮監督下に業務を行っており、欠席ないし降板の回数に応じて違約金を支払わなければならないなど労務提供と報酬には対価性があり、ほとんどの楽団員はアルバイトをすることなくYからの収入を主たる収入源として生計をたてていたといった事情から、その実質において労働契約であり、YとX1,X2,X3らとは労使関係にあったと認めるのが相当としたうえで、〔2〕本件契約の更新拒絶の有効性に関しては、X1及びX2については、両者の演奏能力はYが契約の更新を拒絶してもやむを得ないといえるほどに低いものであったとはいえず、本件更新拒絶は権利の濫用に当たり信義則上許されず、楽団員たる地位を有しているとして請求が認容されたが、X3については、最低合格点の基準には到底及ばず、楽団レベルの向上を図ろうとするのが当然であるYとしても、契約期間終了時において、相当程度のレベルの低下が客観的に認められる場合においてまで、必ず契約を更新しなければならないわけではないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法14条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 演奏楽団員
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 2001年5月16日
裁判所名 岡山地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 948 
裁判結果 一部認容、一部棄却(双方控訴後和解)
出典 労働判例821号54頁
審級関係
評釈論文 岩村正彦・ジュリスト1247号170~173頁2003年6月15日
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-演奏楽団員〕
 労使関係の有無は、当該契約の名称ないし形式によってのみ定まるものではなく、実質的に、双方の契約当事者の関係が、一方の当事者が、他方の当事者から有形無形の経済的利益を得て、一定の労働条件のもとに、他方の当事者に対し肉体的精神的労務を供給するという使用従属関係にあるかどうかにより判断すべきであるところ、被用者が、使用者の指示する時間、場所において、指示された内容の業務を遂行するなど、労務の提供が指揮監督下に行われており、その労務の対価として報酬を得て、その対価を主たる収入源として生計をたてているような場合は、実質的にみて使用従属関係があると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記1で認定した事実によれば、本件契約においては、募集の段階であらかじめ報酬額が定められており、各楽団員に報酬額についての交渉の自由はなく、演奏(パレードも含む、以下同じ。)回数、演奏日程及び日時、演奏場所、演奏曲目、演奏順、楽団員の編成、ソロの演奏等は被告において一方的に決定され、演奏曲目を除いて楽団員側にこれらの決定権限は一切なく、被告の準備した楽器及び備品を使用することができ、降板の際の代役も被告で準備することとなっていたなど、各楽団員はいずれも被告の指揮監督下に業務を行っており、被告の準備したコスチュームを使用し、欠席ないし降板した場合は、その回数に応じて違約金を支払わなければならないなど労務提供と報酬には対価性があり、ほとんどの楽団員はアルバイトをすることなく被告からの報酬を主たる収入源として生計をたてていたといった事情が認められる。さらに、本件契約は、契約の名称こそは雇用契約(契約社員)から出演業務委託契約に変更されたとはいえ、契約の実態としては、有給休暇制度、形式的な拘束時間、社会保険料の事業者負担等がなくなったことを除けば、雇用契約であった平成9年度契約とその実質においてほぼ同じ内容であったことが認められる。したがって、本件契約は、その実質において労働契約であって、被告と原告らとは労使関係にあったと認めるのが相当である。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 本件契約は、本件契約書上、契約期間を平成10年4月1日から平成11年3月31日までとする1年契約である旨明記され、これと異なる合意があったと認めるに足りる証拠はない。むしろ、報酬についても同期間の1年分についてしか定めがなく、契約期間が1年であることは募集要項の段階から明示され、〔中略〕本件契約は、契約期間が1年の期間の定めのある契約であったと認めるべきである。〔中略〕
 被告としても、原則として、本件契約を更新することにより、雇用関係を継続することを予定しており、労働者である原告らも、本件契約の期間が満了することにより、雇用関係が終了するのではなく、本件契約は当然に更新され、雇用関係は当然に継続するものであると期待し、信頼していたものであったと認められるのであって、このような事情の下に本件契約が締結され、雇用関係が存続、維持されてきた場合は、使用者は、単に期間が満了したことのみを理由として、契約の更新拒絶ないし雇い止めを行うことは、信義則上許されず、契約の更新拒絶ないし雇い止めを行うこともやむを得ないと認めるべき特段の事情が存在することが必要であると解するのが相当である。