全 情 報

ID番号 07867
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 エース損害保険事件
争点
事案概要  Y保険会社の従業員であったX1(勤続二七年の五三歳)、X2(勤続二四年の五〇歳)の二名が、平成一二年八月三一日、同年九月一四日までに自主退職を勧告され、退職しない場合は、就業規則の「労働能力が著しく低くYの事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして解雇する旨通知され、同日付で自宅待機命令を以後二週間ごとに一三回繰り返され、平成一二年九月一日から翌年三月一六日まで自宅待機とされ、職場への立入りを禁止され、平成一三年三月一四日に解雇通知と「解雇事由について」という文書を受けたことに対して、地位保全等の仮処分を申し立てたケースで、解雇が無効とされ、賃金仮払いの請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 2001年8月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 21081 
裁判結果 一部認容、一部却下(異議申立(後取下))
出典 時報1808号129頁/タイムズ1116号148頁/労働判例820号74頁/労経速報1807号3頁
審級関係
評釈論文 本久洋一・労働判例829号5~11頁2002年9月15日
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 就業規則上の普通解雇事由がある場合でも、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合は、当該解雇の意思表示は権利の濫用として無効となる。特に、長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 債務者の一方的な合理化策の結果、不適切な部署に配置された債権者らは、そのため能力を充分に発揮するについて当初から障害を抱え、かつ債務者に対し多大な不安や不信感を抱かざるを得なかった(<証拠略>)のであるから、この点において既に労働者に宥恕すべき事情が存する。しかも、それだけではなく、そのような中でさらに、債権者X1については、支店長から繰り返し些細な出来事を取り上げて侮辱的な言辞で非難され、また退職を強要され、恐怖感から落ち着いて仕事のできる状況ではなかったのである(<証拠略>)から、このような状況下で生じたことを捉えて解雇事由とすることは甚だしく不適切で是認できない。債権者X2についても、人員を実質半分以下とし、正社員は2名とも配置換えされ、A取締役すら不安をもった状況で、あえて上記のとおり不適切な配置をするなどしたのであるから、その中で生じた過誤等はむしろ債務者の人事の不適切に起因するものというべきで、債権者X2の責任のみに帰することは相当ではない。さらには、債務者は当初から債権者らを他の適切な部署に配置する意思はなく、また、研修や適切な指導を行うことなく、早い段階から組織から排除することを意図して、任意に退職しなければ解雇するとして退職を迫りつつ長期にわたり自宅待機とした。以上の点に債務者が解雇事由と主張する事実がさして重大なものではないことを考え併せると、仮に、これが解雇事由に該当するとしても、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。