全 情 報

ID番号 07869
事件名 転職補償金請求事件
いわゆる事件名 片山津リゾート事件
争点
事案概要  平成九年七月開業予定のホテルの総支配人となる人材を求めていたY2が、B社に勤務しその関連会社が経営するホテルの宿泊部長の地位にあったX(当時満五三歳)を紹介され、Y2の代表者Y1とXが面談した際、Xが、現時点でB社を退職すると退職手当割増制度(満55歳に退職した場合に適用を受ける)による六〇パーセントの割増金を受け取れなくなる旨、Y1に告げたところ、Y1は、その差額を補償することを約したので、Xは同年一〇月三〇日にB社を退職し、同年一一月二五日からY2の上記ホテルの総支配人の職についたが、稼働を始めてから手渡された給与条件について記された文書には、退職手当の差額についてはXの定年(満六〇歳)まで分割して支払う旨記載されていたため、Xが、満五五歳までに上記差額の支払をY1に申し入れ、その後、一二年二月二〇日に五六歳でY2を退職し、上記差額のうち既払分を除く額についての支払を請求して認められた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法89条3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職時差額補償の合意
裁判年月日 2001年8月31日
裁判所名 金沢地小松支
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 107 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例824号84頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職時差額補償の合意〕
 転職後に被告代表者Y1が原告に対し、本件差額を原告が満60歳に達するまでの間に分割払する内容の条件提示をしたところ、これに対して原告は、満55歳に達するまでに本件差額を支払うよう求めたのであって、その他原告が被告からの上記条件を承諾したとの事実はないし、その後も、本件差額の支払時期に関して、原、被告間で合意に達したとの事実は認められない。〔中略〕
 原告は、前述のとおり、合理的な意思解釈として、本件差額の支払時期は、遅くとも原告が満55歳に達する平成10年3月30日であると主張する(争点(1)に関する原告の主張事実)。しかし、「原告を総支配人として迎えることを希望する被告が、転職に伴って原告に生ずる不利益を補償する」との本件差額の性質を十分に考慮してもなお、その支払時期自体については原告が満55歳に達するときとは別異に解する余地は十分にあるというべきであるから、前述の本件差額の性質のみから直ちに、その支払時期を上記原告主張のように断ずるのは困難であるので、原告の前掲主張は採用できない(なお、これと同様に、本件差額の支払時期を、原告が満60歳に達するときと解すべき正当な根拠は見いだせない。)。〔中略〕
 本件合意に至る経緯等(前記第2の1)に照らして、本件差額は、原告が従前の勤務先を退職してホテルAの開業前にその総支配人として被告に転職するための条件であるということができ、また、本件合意は、転職後に原告が上記ホテルの総支配人として相当期間にわたり稼働し、被告に貢献することを当然の前提としているものということがでる。
 そして、原告がその定年(なお、被告代表者Y1から、定年を60歳とする旨の話があったことは原告も自認する。)に達する前に退職した場合に、被告が本件差額の支払義務を免れるか否かについては、前述のように転職の条件としての本件差額の性質と、本件合意にあたっての被告の合理的な期待内容とを比較勘案する見地から、原告の退職に至るまでの勤務期間、勤務態度、被告への貢献の有無、程度、その他諸般の事情を総合考慮して、これを決するのが相当である。