全 情 報

ID番号 07884
事件名 解雇無効確認等請求各控訴事件
いわゆる事件名 渡島信用金庫(懲戒解雇)事件
争点
事案概要  信用金庫Y2に雇用され、平成九年から役場派出所で一人で出納事務処理に従事し、また労働組合の副執行委員長であったXは、昭和四九年以来一般職でありながら、管理職D級の資格のまま昇給を重ねつつ給与を受けてきたが、平成九年に管理職者の資格認定作業が行われ、Xの資格と職位との不一致の是正を目的として、管理職D級から事務職A級に変更する旨の辞令が発せられ、それに伴い本給が約五万円減額され、更に派出所における現金不正事件(過剰現金の発生につきXがY2の内規、通達に違反して、杜撰な現金出納管理を行い、虚偽の報告をしたことなど)の責任を問われる形で就業規則に基づき懲戒解雇された(第一次解雇)うえ、本訴提起後には、顧客が国民年金保険料を納付すべく交付した現金約二万六千円に関する不法領得が判明したとして、再び懲戒解雇の意思表示(第二次解雇)を受けたため、XがY2に対し、二度にわたる懲戒解雇処分は無効であると主張して雇用契約上の地位確認、Y2による資格変更命令に基づく賃金減額措置の差額分の支払及び違法な懲戒解雇及びそれに先行する資格変更命令と賃金格下げ等により精神的苦痛を受けたと主張して、Y2、代表理事Y1・常務理事Y3に対し、不法行為に基づく慰謝料の支払を請求したケースの控訴審で、原審の結論と同様に、第一次解雇については就業規則所定の懲戒解雇事由が存在するものの、客観的な合理性を欠き、社会的に相当なものとは是認できず権利濫用に当たり無効、第二解雇については懲戒解雇が二重の処分に該当するとして無効としたうえで、雇用契約上の地位確認を認容、未払賃金の支払につき請求を一部認容した原審の判断が維持され、Xの慰謝料請求については控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 二重処分
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 2001年11月21日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 115 
裁判結果 各棄却(上告)
出典 労働判例823号31頁
審級関係 一審/07716/函館地/平13. 2.15/平成10年(ワ)113号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 原判決13頁13行目から18頁7行目までを次のとおり訂正して引用する。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 上記1審原告の行為は、現金2万5600円の支払を受けた際に、同時に受け取り保管すべき納付書類を不注意にも返還し、さらにその現金と納付書類の確認を怠り、他の金銭と混同させて、結果的に不明過剰現金2万6900円を生じさせた点において、金融機関の職員としての現金の取扱いに関する基本的かつ重要な原則に違反するものであり、また、その不明過剰現金を発見しながらその報告を遅滞した点において、過剰現金の処理に関する職務上の義務に違反するものであって、1審原告は、金融機関の職員としての責任感・緊張感に欠けるものがあり、さらに、その報告の内容に虚偽の事実が含まれていることも考慮すれば、職員としての適正・資質に問題があるとする1審被告金庫の指摘もやむを得ないところであるし、瀬棚町及びその関係者に対して、1審被告金庫の執務体制あるいは職員の執務能力に関する不信を抱かせたであろうことも推測できるところである。
 しかしながら、1審原告の行為は、横領等の刑法犯又はこれに類似する行為でないことは明らかであり、1審被告金庫においては、これまでに単なる事務処理規程ないし事務処理要領違反によって懲戒解雇の処分までされた事例は見当たらず、また、発生した不明金額は3万円足らずであり、瀬棚町との指定金融機関事務取扱契約は解除されていないし、1審原告が従前に懲戒処分を受けた前歴があるとの事実も窺えず、さらに、1審原告は、A労組の副委員長であったが、当時、1審被告金庫は、A労組との間で、不当労働行為の紛争中であったことも考慮すれば、1審原告に対する第1懲戒解雇は、苛酷に過ぎ、客観的な合理性を欠くものであり、社会的に相当なものとして是認することができない解雇権の濫用に当たる、と認めるのが相当である。
 したがって、第1懲戒解雇は、無効である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-二重処分〕
 本件納付金の発生と不明過剰現金の発生には社会的な同一性ないし関連性があることは、すでに認定・説示したとおりである(したがって、第1懲戒解雇の処分事由として本件納付金に関する事情を追加主張できることは、前記説示のとおりである。)から、本件納付金に関する第2懲戒解雇は、二重処分に当たり、無効であると解すべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 1審原告と1審被告金庫Y1理事長との平成9年4月22日の面談に至る経緯及び面談の内容、さらに本件減給措置によって生じる効果の重大性に照らせば、1審原告がA労組の役員であり、1審被告金庫の一般職員に比べ、給与や資格に関して詳しい知識を有していた可能性があったことを考慮しても、1審原告が自己の被る不利益を正確に認識したうえ、真意に基づき本件減給措置に同意したと認めることは到底できない。また、1審被告金庫の資格規程や給与規程をみても、職員の降格によって当然に減給される、あるいは1審被告金庫に降格に伴う減給をする一方的な形成権限があると認めることはできない(仮に、降格に伴い当然に減給になると解する余地があるとしても、19年間にわたって資格と職位の不一致が継続していたことに照らせば、本件減給措置は、権利の濫用であり、効力がないと認めるべきである。)。
 (3)したがって、本件減給措置は効力がないから、1審原告は、従前の給与・賞与・手当を請求することができる。