全 情 報

ID番号 07893
事件名 休業補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 東都春陽堂平塚労働基準監督署長事件
争点
事案概要  新聞、雑誌等の委託販売を業とする会社に勤務し、仕分け、梱包、配達、集金などの業務に従事していたY(当時三一歳、WPW症候群(先天的な心臓疾患)という基礎疾患を有していた)が、新営業所に異動して一か月もたたない平成元年四月二八日に会社から帰宅して食事を開始したところ、突然意識を失い、無酸素脳症による植物状態に陥ったことから、本件疾病は業務に起因するものであるとして平塚労働基準監督署長Xに対し休業補償給付等の支給請求をしたが、不支給処分がなされたことから、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、Xは、WPW症候群という基礎疾患を有していたものの、顕性WPW症候群ではなく自然的経過によっては生命に影響する程度の発作を発症する可能性はほとんどなかったところ、死亡一週間前までの集中的な深夜労働を伴う過重な業務が継続したことによる極度の肉体的疲労(新営業所開設に伴う異動後、会社都合による人手不足から、昼間の通常業務に加えて、Y自身あるいは他の従業員も行ったことがないような六日間連続の朝刊業務に従事していた)及び新設営業所への移動等精神的疲労による強いストレスを受けたことにより、それまで重篤な発作を発症したことはなかったにもかかわらず、同日以降においては発作性心房細動等を少なくとも二度にわたり発症するとともに、その直後に上記ストレスのため本件発症に至ったと認めるのが相当であり、このような経緯によれば、本件発症は基礎疾患であるWPW症候群が関与しているものの、上記過重業務等によるストレスによってYの基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、発症に至ったものとみるのが相当であり、本件疾病は労働基準法施行規則三五条別表一の二第九号にいう「業務に起因することが明らかな疾病」に該当するとされて、本件処分を取り消した原審の判断が相当としてXの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 2001年12月20日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (行コ) 274 
裁判結果 控訴棄却(確定)
出典 時報1779号138頁/労働判例838号77頁
審級関係 一審/07848/横浜地/平12. 8.31/平成9年(行ウ)26号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 被控訴人は、WPW症候群という基礎疾患を有していたものの、顕性WPW症候群ではなかったため、自然的経過によっては生命に影響する程度の発作を発症する可能性はほとんどなかったところ(上記2(3))、平成元年4月22日までの集中的な深夜労働を伴う過重な業務が継続したことによる極度の肉体的疲労及び新設営業所への異動等精神的疲労による強いストレスを受けたことにより、それまで重篤な発作を発症したことはなかったにもかかわらず、同日以降においては、上室性頻拍又は発作性心房細動を少なくとも2度にわたり発症し、この影響も加わって、本件疾病の契機となる発作性心房細動を発症するとともに、上記ストレスのため、上記心房細動発症後直ちに本件心室細動を発症することとなり、その後、心停止、無酸素脳症に至ったと認めるのが相当である。
 このような本件疾病発症の経緯によれば、本件疾病は、被控訴人の基礎疾患であるWPW症候群が関与しているものの、上記過重業務等によるストレスによって、被控訴人の上記基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、発症に至ったとみるのが相当であって、本件疾病と被控訴人の業務との間に相当因果関係の存在を肯定することができるというべきである。〔中略〕
 被控訴人が間歇性WPW症候群であった可能性があり、同症であるとすると心房細動から心室細動に至る可能性は極めてまれであるとしながらも、本件疾病が発症した以上、被控訴人は、心室細動に至る可能性の高いハイリスク群に属するとするのであるから、結局、被控訴人がハイリスク群に属したことについては具体的根拠が明らかにされていないというべきである。加えて、上記被控訴人の個人的特性の具体的内容は、推測はされているものの、客観的な裏付けに基づいたものではない上、この個人的特性とストレスとの関係についても、全くないとするものではなく、むしろ一定の関係はあるとしているのである。こうした上記各号証の内容に照らせば、上記各号証は、本件疾病と被控訴人の業務との間に相当因果関係の存在があるとの上記認定を覆すものではないというべきである。
 5 以上によれば、本件疾病は、労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号にいう「業務に起因することの明らかな疾病」に該当すると認められるから、業務起因性が認められないとした本件処分は、取消しを免れない。