全 情 報

ID番号 07897
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 カジマ・リノベイト事件
争点
事案概要  土木建築構造物の補修・補強等を業とし従業員数約二〇名ほどの株式会社Yの工務部において見積り、契約、出来高管理等の業務に従事していた女性従業員Xが、勤務成績や能率の悪さ等を理由に四回のけん責処分を受けたが始末書を提出せず、その後、全労共全国一般東京労働組合・女性ユニオン東京に加入した後、解雇されたところ、XがYに対し、本件解雇は、Xが(旧)労働省婦人少年室に相談に行ったこと、Yの法令違反行為を申告したこと及びXが労働組合に加入したことを理由とする不当労働行為であり、又本件解雇には合理的な理由がなく無効であるなどと主張して、労働契約上の地位確認及び、未払賃金及び解雇前の未払時間外手当・付加金の支払、並びに慰謝料の支払を請求したケース。; XはYにおいて、その上司の指示、指導、注意に率直に耳を傾け、上司の意見を採り入れながら、円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった使用者が従業員に対して通常求める姿勢に欠ける面があったといえることにも照らせばXについて、就業規則の解雇事由(勤務成績又は能率が著しく不良で就業に適しないと認めるとき)に形式的には該当するとみることができるが、Yは第一次けん責処分後に限ってみても一連のけん責処分に対するXの反論や対応を見極めてXと対話するなどといった方策を十分講じたことは認め難いこと、Yにおいては労働契約関係を維持したままする、けん責処分を上回る程度の懲戒処分として減給、出勤停止処分等があるが、本件第四けん責処分後もこのような懲戒処分を行うことに特段支障はなかったことなどから、本件解雇の解雇理由となるべき事情を総合考慮しても、本件解雇は権利(解雇権)の濫用として無効であると解するのが相当であり、その余りの点を判断するまでもなく本件解雇は無効であるとして、労働契約上の地位確認及び未払賃金の請求が一部認容されたほか未払時間外手当の支払請求の一部が認容された(本判決確定後の賃金・賞与請求部分が却下、解雇後の賞与請求・慰謝料請求が棄却)事例。
参照法条 労働基準法89条3号
民法1条3項
民法709条
民法710条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2001年12月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 25339 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例824号36頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 (1)で認定した事実を総合すれば、原告は被告において、その上司の指示、指導、注意に率直に耳を傾け、上司の意見を採り入れながら、円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった、使用者が従業員に対して通常求める姿勢に欠ける面があったといえることにも照らせば、原告について、就業規則39条2号(「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」)に形式的には該当するとみることができる。
 (エ) しかし、労働者を解雇する場合、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、当該解雇は権利(解雇権)の濫用として無効となるというべきである。この見地から上記の事情を改めて検討するに、これらの事情は、上司と部下との意見の対立や行き違いを原因とするものにすぎないなど、社会通念等の観点からして重大な問題であるとまではいい難いこと、(ア)で挙げた事実において、被告の業務に支障を来した程度も、社会通念上さほど重大なものとはいえないこと、本件全証拠をみても、被告は、本件第1けん責処分後に限っても、一連のけん責処分に対する原告の反論や対応を見極めて、原告と対話するなどといった方策を十分講じたとは認め難いこと、被告においては、労働契約関係を継持したままする、けん責を上回る程度の懲戒処分として、減給、出勤停止等があるが(就業規則46条。〈証拠略〉)、弁論の全趣旨によれば、被告には、本件第4けん責処分の後であっても、このような他の懲戒処分を行うことに特段支障はなかったものと認められること、以上の点にかんがみれば、本件解雇の解雇理由となるべき事情を総合考慮しても、本件解雇は権利(解雇権)の濫用として無効であると解するのが相当である。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 本件解雇が無効であるとした上で、被告に対し地位の確認及び未払賃金及び将来賃金の支払を命ずる以上(主文第2ないし第4項)、本件解雇による原告の精神的な損害はてん補されるものと解するのが相当である。もとより、解雇事案に関し、賃金等の支払によってはてん補されない精神的な損害が生ずる事案もあり得るが、本件がそのような場合であることを認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
 けん責処分については、処分を行うか否かを決定する権限は専ら使用者にあり、この権限を濫用して処分を行うなどといった特段の事情のない限り、その処分の内容、時期、回数等を問わず、処分を行うこと自体が不法行為に該当すると解することはできないというべきである。本件においては、上記2のとおり、本件第1及び第2けん責処分のけん責事由には、認めることができないものも相当数含まれており、また、上記2(1)ケ(イ)のとおり、本件第2けん責処分後、原告が、専門家に相談中であることを理由に、始末書の提出の猶予を依頼しているにもかかわらず、被告はこれに配慮することなく、始末書の提出を相次いで督促し、その上で直ちに本件第3けん責処分を行っていて、使用者として穏当さを欠く措置を執っているということもできる。しかし、上記2(3)イ(ア)ないし(ウ)で認定した原告の対応や発言等を加味して考えれば、上記の事情をもって、被告がその裁量権を濫用したものと認めるには足りず、他に上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
 その他、職場における上司の部下に対する発言、行動等が部下において受け入れ難いとか、感情の対立を招く性質のものであったとしても、そのことのみで部下に対する不法行為となると解するのは困難であり、その発言、行動等が、職場における上司と部下という、通常想定し得る関係を超えたものであるなどといった特段の事情のない限り、不法行為の成立を認めることはできないというべきである。本件において、仮に、原告主張に係る被告の上司による個々の発言、行動等があったとしても、そこに上記特段の事情を見出すことはできず、これをもって不法行為であると認めることはできない。