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ID番号 07922
事件名 取立債権請求事件
いわゆる事件名 取立債権請求事件
争点
事案概要  電子計算機の保守修理等を目的とする株式会社Yの関連会社A社に昭和五六年以来勤務していたBは平成一〇年七月にYの従業員となった者であり、X社(割賦販売立替業務等を行う株式会社)に対して貸金債務を負っているCの連帯保証人であったところ、Xがこの貸金債権について有している公正証書を債務名義としてXを債権者、Bを債務者、Yを第三債務者として、BのYに対する賃金債権、一時金債権、退職金債権の四分の一の金額について債権差押命令の申立てを行い、それによって出された債権差押命令が平成一〇年八月にYに対し送達されたところ、XがYに対し、〔1〕Bの退職金についての債権差押命令に基づく取立権の行使を理由として退職金の四分の一の支払を求めるとともに、〔2〕Yが第三債務者として不実の陳述をしたことにより損害を受けたとして民事執行法一四七条二項に基づきその賠償を請求したケース。(Bは差押命令送達後の平成一〇年九月に自己都合退職した)。 Yでは退職金の種類が、普通退職金、自己都合退職金、勤続加給金、特別功労加給金、慰労金の五種類あり、Bが支給対象となったのは自己都合退職金と勤続加給金であるところ、本件退職金規定には「勤続五年を経過した者については、本条に基づく退職金を基金より一時金又は年金として支給する」旨の定めがあり、これは勤続五年を経過した者に係る普通退職金及び自己都合退職金については、本件基金規約及び本件基金規約附則各所定の諸給付に係る権利関係として、すべて基金との関係において処理するものとし(Yには厚生年金基金制度があった)、したがって、Yはこれら退職金の支払義務の主体とならないとの趣旨と解するのが相当である(なお、これら以外の三種類の退職金(勤続加給金、特別功労加給金、慰労金)については、上記のような定めがないから、これら各退職金の支給を定める本件退職金規程の各条項に従い、Yがその支払義務の主体となるものである)から、BがYに対し退職金(自己都合退職金)の支払請求権を有していたとするXの主張は失当であるとして、Xの請求が棄却され、〔2〕についても、Yが不実の陳述をしたということはできないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支払義務者
裁判年月日 2002年2月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 3491 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例826号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金の法的性質〕
 (1)退職金請求権は、退職に伴って当然に発生するものではなく、使用者が就業規則、労働協約等により、その支給の条件を明確にして支払を約した場合に、その支給の条件に即した法的な権利として、初めて発生するものと解される。退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項について就業規則を作成すべきことを定める労働基準法89条3号の2の規定もまた、退職金請求権が上記のような性質・内容のものであることを前提として設けられているものと考えられる。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金の支払義務者〕
 本件退職金規定6条ただし書、7条3項にいう「勤続5年を経過した者については、本条に基づく退職金を基金より一時金又は年金として支給する。」旨の定めは、勤続5年を経過した者に係る普通退職金及び自己都合退職金については、本件基金規約及び本件基金規約附則各所定の諸給付に係る権利関係として、すベて基金との関係において処理するものとし、したがって、被告はこれら退職金の支払義務の主体とはならないとの趣旨と解するのが相当である。他方、これら以外の3種類の退職金、すなわち、勤続加給金、特別功労加給金及び慰労金については、本件退職金規定6条ただし書、7条3項のような定めは置かれていないから、これら各退職金の支給を定める本件退職金規定の各条項に従い、被告がその支払義務の主体となるものである。
 なお、原告は、仮に、本件退職金規定によって被告が退職金債務を負わないことになるとすれば、基金の倒産や被告の掛金不払による退職金不払の危険が生じ、また、使用者が自己が負担する賃金債務について第三者に免責的債務引受けをさせることも、労働者の同意さえあれば有効であるということになるとし、これは労働基準法の定める賃金保護に関する諸規定に反するものであり、不当であるなどと主張する。しかし、基金の倒産や被告の掛金不払によって基金の給付が行われなくなるというような可能性があることは否定し得ないものの、このような事実上の可能性が存在するからといって、基金からの給付を組み込んだ本件退職金規定のような制度設計が許されなくなるものでないことは、上記(1)の説示に照らして明らかである。また、本件退職金規定の上記内容は、使用者が賃金債務を第三者に免責的に引き受けさせることとは関係のないことであるから、原告主張のごとく、労働基準法の定める賃金保護に関する諸規定に反するものでないことも、いうまでもない。〔中略〕
 以上によれば、Bは、被告に対し、退職金(自己都合退職金)372万7200円の支払請求権を有していたとする原告の主張は失当であるから、本件差押命令によって取得したとする取立権の行使としてその4分の1である93万1800円の支払を求める原告の請求は、理由がない。