全 情 報

ID番号 07929
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本ヒルトンホテル(本訴)事件
争点
事案概要  ホテルYが紹介手数料を支払うことで配膳会が日々配膳人の紹介をするという合意の下で、ホテルの食器洗浄及び管理業務、ステージの設営等の業務に従事していた配膳人Xら(いずれも配膳会に登録)が、自らの希望を前提として就労予定表が作成され勤務日が個別に決定され、それに従って勤務していたが、Yは多額の累積損失を抱え、危機的な状況にあったため、正社員の賞与を引き下げるなどの措置を行うとともに、Xらに対しても労働条件の変更(食事・休憩時間の賃金支給対象からの除外、交通費の実費支給等)を拒否すれば契約を更新しない旨を伝えたところ、XらはYに対し、異議留保付承諾の意思表示を通知したが、YはXらに対し、雇用関係はないとしてその就労を拒否したため、XらがYに対し雇用契約上の地位の確認及び賃金支払等を請求したケースで、本件労働条件の変更は合理性が認められるとしたうえで、これがXらの労働条件の切り下げを正当化する理由とはなりえても、Xらに対する雇止めを正当化するに足る合理的な理由であるとは認めがたく、本件雇止めは社会通念上相当と認めるに足りる合理的な理由の存在を認めるに足る証拠はないとして、地位確認請求と賃金支払請求の一部につきXらの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法14条
労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事) / 変更解約告知・労働条件の変更
裁判年月日 2002年3月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 29076 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例825号13頁
審級関係 控訴審/08080/東京高/平14.11.26/平成14年(ネ)2160号
評釈論文 ・労政時報3541号74~75頁2002年6月7日/根本到・日本労働法学会誌101号109~120頁2003年5月/小林譲二・季刊労働者の権利245号47~54頁2002年7月/中村和夫・労働判例830号5~12頁2002年10月1日/中村和雄・民商法雑誌127巻4・5号226~237頁2003年2月/唐津博、浜村彰、毛塚勝利、村中孝史・労働法律旬報1543号4~31頁2003年3月25日
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 日々雇用される労働者についても、勤続期間を観念することがその雇用形態と論理的に矛盾するものであるとはいえないのであって(労基法21条等)、日々雇い入れられる者についても、同一人が引き続き同一事業場で使用されている場合には、間断なく日々の雇用契約が継続しているものではなく、途中に就業しない日が多少あったとしても、社会通念上継続した労働関係が成立しているものと認め、いわば常用的日々雇用労働者として、法律的に扱うことを認めうるというべきである。そして、被告とこのような日々雇用の関係にある配膳人との間で、時給に関する賃上げ交渉が1年単位で行われていたからといって雇用期間の定めがないということにはならないし、有給休暇の付与並びに健康保険及び厚生年金保険への加入手続がなされていても、こうした取扱いはいずれも被告が法の規定に従った取扱いをしただけのものであるから、法定の要件に達したことにより健康保険及び厚生年金保険に加入したとしても、雇用契約上の期間の定めそのものが日々雇用される契約から期間の定めのないものに変更されるものとは認められない。〔中略〕
 原告らと被告との間の労働契約は日々雇用契約を締結するという日々雇用関係にあったものと認められ、被告が本件通知書の変更に応じない原告らに対し、平成11年5月11日以降、日々締結される雇用契約の更新を拒絶したことは、期間の定めのある雇用契約を更新しなかった雇止めに該当するというべきである(以下「本件雇止め」という。)。〔中略〕
 原告らは、被告(Y)に就労するようになってから本件雇止めまで、いずれも約14年間という長期間にわたり、被告との日々雇用の関係を反復更新してきたもので、被告も平成3年11月1日に本件資格規定を定めるなど、Yに勤務する配膳人のうちでも常用者である者の存在を認めるとともに、原告X1及び同X2を常勤者(A1)に、原告X3を準常勤者(A2)に、原告X4を一般(A3)にそれぞれ指定していたもので、その後、原告らは遅くとも平成8年以降は週5日勤務を継続していた。そして、被告と組合とは、原告ら組合員の勤務条件に関して、時給額(交通費を含む)についての賃上げ交渉や勤務条件に関する交渉を定期的に行い、その中でも特に常用者についは(ママ)雇用継続を前提とした合意をし、あるいはその勤務条件について他の配膳人とは異なる高い基準での合意をしてきたこと、本件雇止め当時、原告らにおいて、被告(Y)における勤務条件と同程度ないしそれ以上の条件で、他のホテルにおいてスチュワードとして勤務することは困難であったこと等が認められるのであって、これらの事情(常用者の勤務実態や被告らの常用者に対する扱い等)を総合すれば、常用的日々雇用労働者に当たると認められる原告らについての被告との間の雇用関係は、原告らにおいてある程度の継続性が期待されるものであったと認められる。そして、被告は、このような労働者を雇止めにするに当たっては、景気変動等によって被告(Y)における業務量が低下し、労働力の過剰状態を生じたなどの社会通念上相当と認められる合理的な理由が必要であるというべきで、このような理由が認められない限り、原告らとの間の日々雇用契約の締結(更新)を拒絶することは許されないというべきである。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔解雇-変更解約告知・労働条件の変更〕
 本件雇止めを正当化するに足りる合理的な理由とは、景気変動等によって被告の業務量が低下し、労働力の過剰状態を生じたといった社会通念に照らして原告らを雇止めすることもやむを得ないと認められる相当な理由をいうと解されるところ、被告は、本件通知書に基づく労働条件の変更に同意した配膳人に対する就労をその後も継続しつつ、(前記1(6)ケで認定したとおり、)本件雇止め以後、原告らが従前に行っていた仕事を行わせるために新たに請負業者から配膳人を受け入れていることが認められるところである。そして、これらの事実及び(人証略)の証言によれば、被告が、原告らに対して本件雇止めをした理由は、業務量の低下等のために、原告らスチュワードを就労させる必要がなくなったことによるものでも、被告の経営状態の悪化を理由とするものでもないのであって、原告らが本件通知書に基づく労働条件の変更に同意をしなかったこと(すなわち、被告の経費削減に協力しなかったこと)、及びこの労働条件の変更について争う権利を留保したうえで被告のスチュワードとしての就労を認めるときは、仮にこの労働条件の変更が許されないとの裁判所の判断等がなされた場合に、この変更に同意したスチュワードと原告らスチュワードとの間の労働条件が異なることになって相当ではないとの理由によるものであると認められる。そして、もし、本件における事実関係の下で、このような理由に基づく雇止めが許されるとするならば、被告は、Yに就労する配膳人に対し、必要と判断した場合には何時でも配膳人にとって不利益となる労働条件の変更を一方的に行うことができ、これに同意しない者については、これに同意しなかったとの理由だけで雇用契約関係を打ち切ることが許されることになるのであって、このような理由は、社会通念に照らして本件雇止めをすることを正当化するに足りる合理的な理由とは認め難いのである。
 以上のとおりであるから、結局、本件においては、本件雇止めをすることを認めるに足りる合理的な理由があるとすることはできないし、他に、本件雇止めについて社会通念上相当と認めるに足りる合理的な理由の存在を認めるに足る証拠はないと言わざるを得ない。〔中略〕
〔解雇-変更解約告知・労働条件の変更〕
 原告らは、被告に対し、本件通知書に基づく労働条件の変更の効力について争う権利を留保しつつ、本件通知書の内容に基づいて変更された労働条件の下での就労に同意する旨の通知をしたことが認められるのであって(本件異議留保付き承諾の意思表示)、この事実によれば、本件通知書に基づく労働条件の変更に伴う紛争の解決を裁判所等による判断に委ね、変更後の労働条件に基づく労働契約の締結の申入れをしていたものというべきであり、被告は、原告らが本件労働条件の変更を争う権利を留保したことを理由に本件雇止めをし、原告らとの間で日々雇用契約の更新(締結)を拒否することは許されないというべきである。