全 情 報

ID番号 07939
事件名 遺族補償給付不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 三井東圧化学・中央労基署長事件
争点
事案概要  B株式会社の機動性ポリマー事業部営業企画開発室幹部職員として新製品の開発及び企画業務に従事していたA(当時四八歳・高血圧症で投薬治療を受診、また高脂血症、一日五〇本から七〇本の喫煙習慣あり)が、平成二年五月一九日急性心筋梗塞で死亡したところ、Aは発症二週間前の連休中に発熱があり、連休明けになっても発熱は十分下がらなかったが休暇を取ることなく出勤し、予定されていた鹿児島出張(日帰り)や宇都宮出張(日帰り)をこなし、その直後に一過性の症状が発現したにもかかわらず、同日から重要な取引先である米国会社の担当者の巡視に通訳を兼ねて随行するため、広島県福山市、大分県佐伯市、台湾を順次めぐる五泊六日の出張に出かけ、帰国後も、休暇を取得することなく勤務を続け、連休明けから死亡日までの一三日間、一日も休暇を取っていなかったことから、右Aの死亡は業務上の事由によるものであるとして、Aの妻Xが中央労働基準監督署長Yに対し、遺族補償給付を請求したが、不支給処分とされたため、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、このような一連の業務内容の過重性と、同業務とAの急性心筋梗塞発症との時間的近接性に鑑みると、Aが急性心筋梗塞発症前に従事した上記業務がAの上記基礎疾患をその自然の経過を著しく超えて増悪させた結果、上記発症に至ったものと見ることが相当であって、その間に相当因果関係を認めることができるというべきであり、発症時がたまたま業務終了後の私的用務中であったことは、その時間的な近接性からして上記判断を左右するものではないとして、業務起因性を認めXの控訴を認容し、原判決が取り消された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2002年3月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (行コ) 198 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例828号51頁/第一法規A
審級関係 一審/東京地/平13. 8.23/平成8年(行ウ)88号
評釈論文 山口浩一郎・月刊ろうさい53巻11号4~7頁2002年11月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 前記事実関係によれば、亡Aには、急性心筋梗塞を含む虚血性心疾患の3大危険因子である高血圧及び高脂血症の各症状と喫煙習慣があり、昭和61年1月14日以降、高血圧症の投薬治療を受けていたものであるから、亡Aの死亡の原因となった急性心筋梗塞の基礎疾患というべき冠状動脈硬化症による血管病変等が自然経過において進行していたものと推認されるが、一方で、労働による過重な負荷や睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇等を生じさせ、その結果、血管病変等が自然経過を超えて著しく増悪し、虚血性心疾患が発症することがあるとされているところ、前記のとおり、亡Aは、平成2年5月の連休中に38度5分の発熱があり、連休明けの同月7日(月曜日)になっても発熱は十分に下がらなかったが、休暇を取ることもなく出勤し、予定されていた鹿児島出張や宇都宮出張をこなしたもので、その直後の同月12日(土曜日)にトイレの中で胸が苦しくなる一過性の症状が発現したが、それにもかかわらず、同日から重要な取引先である米国会社の担当者の巡視に通訳を兼ねて随行するため、広島県福山市、大分県佐伯市、台湾を順次巡る5泊6日の出張に出かけ、帰国後も、休暇を取ることなく死亡した同月19日(土曜日)まで勤務を続け、連休明けに発熱を押して勤務を始めた同月7日から13日間、1日も休暇をとらなかったの(ママ)ものである。そもそも、出張業務は、列車、航空機等による長時間の移動や待ち時間を余儀なくされ、それ自体苦痛を伴うものである上に、日常生活を不規則なものにし、疲労を蓄積させるものというべきであるから、移動中等の労働密度が高くないことを理由に業務の過重性を否定することは相当ではなく、このような13日間連続の国内外の出張を含んだ一連の業務が極めて過重な精神的、身体的負荷を亡Aに及ぼし、その疲労を蓄積させたことは容易に推認されるところであり、このことは、亡Aが死亡した前日に翌週から予定されていた出張の交替を同僚に申し出ていたことからも窺われるところであって、このような一連の業務内容の過重性と、同業務と亡Aの急性心筋梗塞発症との時間的近接性に鑑みると、同人の上記基礎疾患の自然の経過による進行のみ(ママ)よってたまたま同急性心筋梗塞が発症したにすぎないということは困難であり、むしろ、亡Aが急性心筋梗塞発症前に従事した上記業務が亡Aの上記基礎疾患をその自然の経過を著しく超えて増悪させた結果、上記発症に至ったものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係を認めることができるというべきであり、発症時がたまたま業務終了後の私的用務中であったことは、その時間的な近接性からして上記判断を左右するものではない。