全 情 報

ID番号 07940
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 東建ジオテック事件
争点
事案概要  地質調査等を行う株式会社Yで、係長、課長補佐、課長、次長、あるいはスタッフ職(課長待遇調査役、次長待遇調査役)として勤務していたXら七名が、所定ないし法定休日と法内ないし法外超勤に対する手当、深夜業手当の支払と、これに対する付加金の支払を請求し、Xらの労働基準法四一条二号の管理監督者性等が争われたケースで、就業規則に基づく時間外賃金等の請求については、Xらはその支払対象とはなっていないとして請求が認められないとしたうえで、Xらは人事評価に関与していたり、あるいは支店の幹部会議、管理職会議に出席していたが、これがYの経営方針に関する意思決定に直接的に関与していたとか、経営者と一体的な立場にあったことを示す事実とはいいがたく、また係長以上の者はタイムカードによる厳格な勤怠管理はしないものの、社内文書で遅刻・早退は慎むべきものと示達、就業規則の文言上も、主任以下の者と同様に勤務時間が定められ、現実に支店長らが視認する方法による勤怠管理の下に置かれていたこと等から勤務時間が自由裁量に委ねられていたとは到底評価できない等として、労働基準法四一条二号の管理監督者には該当しないとし、同法三七条に基づく割増賃金請求が一部認容された(付加金支払も命じられた)事例。
参照法条 労働基準法41条2号
労働基準法115条
労働基準法37条
労働基準法36条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
雑則(民事) / 時効
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 労働時間の始期・終期
裁判年月日 2002年3月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 6681 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例827号74頁
審級関係
評釈論文 奥野寿・ジュリスト1249号161~164頁2003年7月15日
判決理由 〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 ア 管理監督者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤・退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきであり、単に局長、部長、工場長等といった名称にとらわれることなく、その者の労働の実態に即して判断すべきものである。
 イ これを本件についてみると、前記認定事実によれば、原告らは、いずれも東京支店又は東北支店の技術部門に所属し、現場に赴いて自ら、あるいは他従業員を現場で指揮監督しつつ地質調査の業務に従事していたほか、原告X1及び同X2を除く原告ら5名は、課長補佐以上の職にあった当時(調査役の職にあった時期を除く。)いずれも、支店の管理職会議に出席して支店の運営方針等について意見を述べる機会が与えられ、原告X3は、次長職にあった当時、週1回開かれる支店の幹部会議に出席し、また、原告X4、同X5を除く原告ら5名は、部下の人事評価に関与していたことが認められる。しかしながら、この管理職会議は、支店において開かれるもので、回数も年に2回にすぎず、その実態も、基本的に会社経営側の支店運営方針を下達する場であったと認められるから、上記のような管理職会議の場で意見具申の機会を与えられていたことをもって、被告の経営方針に関する意思決定に直接的に関与していたと評価することはできないし、原告X3が出席していた幹部会議も、被告がその経営方針にかかわることがらを決定する場であったとは認めがたい。また、原告X4、同X5を除く原告ら5名が行っていた人事考課についても、係長として部下の評価について意見を述べ、あるいは課長補佐以上の職にある者として自ら部下の評価を行うことはあったが、当該人事考課には上位者による考課がさらに予定され、最終的には支店長の評点が被考課者の総合評価とされていたのであり、労務管理の一端を担っていたことは否定できないものの、経営者と一体的立場にあったことを示す事実とはいいがたい。〔中略〕
 エ その他、前示の本件請求期間中における原告らの職務内容及び勤務実態にもかかわらず、なお、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあると評価しうるような事情を認めるに足りる証拠はなく、したがって、原告らは、いずれも管理監督者と認めることはできない。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 原告らの請求する割増賃金はいずれも労働基準法11条の賃金に該当するから、請求をすることができる日から2年間これを行使しない場合には時効により消滅する(同法115条)ところ、前提事実によれば、原告らの賃金の支給日は毎月25日であり、その日に前月21日から当月20日までの分を支給することとされているから、毎月25日に、対応する給与期間中の賃金について権利行使が可能となる。
 原告らが本訴を提起した日が平成10年3月31日であること、被告が平成11年3月26日の本件口頭弁論期日において原告らに対し上記消滅時効を援用する意思表示をしたことは、いずれも当裁判所に顕著であり、また、証拠(<証拠略>)によれば、原告X4、同X6、同X7、同X1が、本訴提起前6か月以内である平成9年10月1日付けの内容証明郵便により、平成6年6月分から平成8年8月分までの未払時間外手当を請求し、これは遅くとも同月14日までには被告に送達されたことが認められる。
 以上によると、原告X4、同X7、同X6及び同X1の請求する時間外賃金のうち平成7年9月分(同月25日が支給日)以前のもの及び原告X5、同X3、同X2の請求する時間外賃金のうち平成8年3月分以前のものは、いずれも権利を行使しないまま2年間の時効期間を経過したことにより時効消滅したというべきである。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 労働基準法37条4項及び労働基準法施行規則22条は、割増賃金の基礎となる賃金を列挙しているが、これらの外に、時間外労働割増賃金と同内容の性質を有する手当は、割増賃金の基礎となる賃金には含まれないというべきである。なぜなら、仮にこのような手当を時間外労働割増賃金算出の基礎に含めると、時間外労働に対して重複した手当が支給されることになるからである。〔中略〕
 労働基準法37条は、法定時間外労働に対して通常賃金が支払われることを前提に、これに付加して25パーセントの割増賃金を支払うことを要求している。したがって、実質的に見て、時間外労働あるいは休日労働に対する時間当たりの通常賃金部分が既に支払われていると評価できる場合には、割増賃金の算定における加算率は25パーセントとして計算すべきものである。
〔労働時間-労働時間の概念-労働時間の始期・終期〕
 被告は、原告らは出社時間を明らかにしておらず、実労働時間の立証がない旨主張するが、前記認定事実によれば、被告の係長以上の者においては、タイムカードによる厳格な出社時間の管理を廃止した際、同時に、被告から遅刻をつつしむべきことを通知され、実態としても上位者の現認による勤怠管理がなされていたのであるから、特段の事情がない限り、遅くとも就業規則所定の出社時間である午前9時までには出社していたと推認される。したがって、上記特段の事情の主張立証のない本件においては、午前9時を労働時間の開始時刻として原告らの労働時間を算定することが相当であり、これに反する被告の主張は採用できない。