全 情 報

ID番号 07945
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 中川工業事件
争点
事案概要  各種製缶業を主たる業とする株式会社(役員を除き六名)Yで製缶溶接組立工として勤務していたXが、糖尿病等で一か月間入院しその後退院して就労を希望し、半日間作業を行ったところ、作業能率が悪くその内容の不完全であったため、それ以上作業を継続させることはできないと判断したYから治療に専念するよう申し渡され、その翌日から再度休業し、診断書等(神経障害により右手指機能全廃、頚椎性頚随症のため一か月間の要入院)を提出していたが、Xの病状が回復しなければ、従前の製缶溶接業務に就くことは無理であると判断したYからYに隣接する、代表取締役をYと同じくする別会社において単純作業を行ってはどうかと提案されたが、これを拒否したため、解雇されたことから、右解雇は理由がなくまた解雇権の濫用であると主張して労働契約上の地位保全及び賃金の仮払を申し立てたケースで、Xの症状からするとXが従前と同じ製缶溶接組立の業務を担当することはその業務内容からして無理ないしは非常に困難であるといわざるをえないとしつつ、Xは職種限定雇用ではないところ、YはXの労務内容をみて、右組立業務を行うことが困難であると判断し、その後、医師から入院加療が必要と診断されているXに対し、特段休職を命じることなく、また、使用者としてXの今後の就労につき配置可能な業務があるか否かを検討することなく、解雇を行うに至っており(別会社への就労の提案は労働条件に影響が生じるから雇用形態につき十分に説明すべき義務があるがそれをYは行っていない)、このような経緯からすれば、解雇は合理的な理由で行われたものでなく、解雇権の濫用であり無効として、賃金の仮払の申立ての一部につき申立てが認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 病気
解雇(民事) / 解雇事由 / 社会保険料の負担
裁判年月日 2002年4月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成14年 (ヨ) 10022 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1809号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-病気〕
 (一) 労働者が職種や業務内容を限定して雇用された者であるときは、労働者がその業務を遂行することができなくなり、その者を配置する部署が実際に存在しない場合は、労働者は債務の本旨に従った履行の提供ができなくなるから、これが解雇事由となることはやむを得ない。一方で、労働者が職種や業務内容を特定せずに雇用された場合には、現に就業を命じられている業務についての労務の提供が不十分であっても、その能力、経験、地位、使用者(会社)の規模、業種、労働者の配置、異動の実情等を考慮して、労働者が現実に配置可能な業務があるか検討すべきであり、このような業務について、労働者が労務の提供を申し出ているのであれば、なお債務の本旨に従った履行の提供があるというべきである。
 (二)(1)そこで、本件を見るに、上記認定事実によれば、債権者は糖尿病のために平成一三年八月六日から一か月間入院し、その後一日だけ職務に復帰するも、従前と同じ製缶溶接業務を遂行することができず、さらにその後、頚椎性の神経障害により右手指機能全廃、身体障害者三級に相当すると診断された上、同年一0月には頚椎症性頚随症のために約一か月間入院治療を要するとされており、このような債権者の病状からすると、債権者が従前と同じ製缶溶接組立の業務を担当することは、その業務内容からして無理ないしは非常に困難であるといわざるを得ない。
 (2) しかし、本件において、債権者が債務者に職種を限定されて雇用されたと認めるに足りる疎明はない。むしろ、債務者が、債権者に対し、単純作業に変わってはどうかと提案していることからすれば、債権者は、債務者に職種を限定されて雇用された者ではないと認められる。そして、債務者は、平成一三年九月一三日の債権者の労務内容をみて、製缶溶接組立業務を行うことが困難であると判断し、その後、医師から入院加療が必要と診断されている原告に対し、特段休職を命じることもなく、また、使用者として、債権者の今後の就労につき、債務者において配置可能な業務があるかを検討することなく、本件解雇を行うに至っており、このような経緯からすれば、本件解雇は、合理的な理由なく行われたもので、解雇権の濫用であり無効というべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-社会保険料の負担〕
 債務者は、債権者が病気のために就労していないので、社会保険料等の本人負担分を立て替えており、この支払を免れるために本件解雇を行った旨も主張するが、債務者としては、立て替えを拒否するか、立て替え済みの分については、後日債権者に請求すれば済むのであって、そもそもこのような事情は解雇についての合理的な理由とはならない。